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第4話 第一章(3)

 バシッ、ドン、とマットレスに体が打ち付けられる音がひっきりなしにトレーニングルームに響いている。 「たまってんな。黒龍。俺が相手になってやってもいいんだぜ。これじゃあ欲求不満で寝れねぇだろ」  脚を絡ませられ、腕を押さえつけられた状態で組み敷かれている黒龍は182センチ、すらっとしているので痩せているように見えるが充分筋肉がついている細マッチョタイプだ。それに対してウルフは筋骨隆々とした見るからに白人のマッチョタイプ。身長は変わらないがやはり体重は負ける。しかし黒龍は負けてはいない。不意打ちで頭突きをかまし、相手が怯んだ隙に反動を使い、上に乗っかる。  馬乗りになると素早く腕を顎の下に入れ、喉に圧力をかけた。 「ま、まいった。黒龍。まいった」  ウルフは苦しそうにしながらも顔は笑っている。黒龍も笑いながら、腕の力を緩め、立ち上がった。 「お前と久しぶりに二人だけでうれしいよ」  そう言ったウルフを睨む。 「二人きりじゃないだろ、隊長もいるしアルジュンもいる」 「まぁそうだけどさ、あの二人はいつもいるんだからさ、それ以外でって話だよ。それより今 夜どうすんの? 飲みに行くなら俺も一緒に連れてってよ」 「いや、夕方から隊長に呼ばれてるから」  シャワールームに入りまず体を洗う。その後、一人用のジャグジーにそれぞれ入った。 「お前のドラゴンタトゥー、今にもそこから飛び出してきそうなほど元気そうだな」  ウルフが黒龍の体に絡みつくように彫られている黒い龍のタトゥーを顎で指す。  黒龍のタトゥーは右胸に頭、背中から左足に絡みつくように彫られてある。そもそも日本名が黒木龍一だ。入れ墨を入れたのは、フランス外人部隊に所属する前だった。それから黒龍と呼ばれるようになった。 「なぁ、お前……そんなギンギンに興奮してるくせにほんとに抜かなくていいのかよ」  ジャグジーに寝そべっている黒龍の股間で存在を誇張する男根は腹に着くほど反り返っている。それを指差しウルフは悪戯な笑みを向けていた。ため息が黒龍の口から漏れる。 「淫乱のくせに仲間とは寝ないとか。ほんと、お前はわけわからんよ。仲間だから性欲処理も引き受けられる割り切った関係が築けるとは思えないわけ?」  もう何度も腹を割って話し合った問題だった。ウルフはどういうわけか、黒龍の欲望を処理するだけの相手を志願し、毎回そっけない態度を取られているにも関わらず諦める様子はない。 「俺の決めたルールだからな。そんな簡単な話じゃないって言ったろ。俺の性欲処理は仲間以外。ただそれを忠実に守ってるだけだよ」  ウルフはふんと鼻で嗤っただけでそれ以上何も言わなかった。

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