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第6話 第一章(5)
「任せてください」
レンが頷き立ち去っていく背中を見据える。同じリビングの空間のキッチンのカウンターでカレーを食べていたウルフが即座に黒龍の方に振り向き、にやりと笑った。
「楽しくなりそうだな。早速、ブリーフィングするか」
意気揚々としているウルフに黒龍もにやりと口角を上げ頷いた。
2階には、ランドリールーム、6部屋の寝室、パソコンルームがある。パソコンルームにウルフと向かった黒龍は、入口近くのテーブルにお互い向かい合わせに座った。ノートパソコンを起動し、ウルフはUSBを指し込んだ。
「世羅仁人、36歳。表向きは射撃場の経営、不動産を扱っているが、本業はM&A、株取引、投資業で儲けている。ロシアから仕入れた銃を桐生にながしているのは、桐生の為だけだろう。桐生組のフロント企業で一番の稼ぎ頭、10年間その地位は揺らいでいない。嘉納組長が入院したことによって時期組長候補争いが勃発するのも時間の問題って感じ。さっき隊長が言ってたみたいに、若頭の松尾が桐生を蹴落としたがってるからさ。で、そんな厄介な時期に世羅はブラトーバとなにやら雲行きが怪しくなってるわけ」
「もめごとの原因はわかってるのか?」
「いや、今のところ掴めてない。世羅はそもそもブラトーバとさっさと手を切りたいんじゃないかと思う。しかしタイミングが悪いよな。何があったのか今調査中。どこから情報を仕入れたのかうちの改造銃にご執心でさ、それにお前を護衛に指名してきたらしいよ」
黒龍の眉間に皺が寄る。
「どこで俺のことを知ったのか気になるな」
「その件に関して隊長から特に何も支持されてないけど、探ってる。俺も気になるし」
ウルフが含み笑いをする。
全く頼りになる男だ。
ディスプレイに映し出されている世羅の写真に目が釘付けになる。はっきり言って、黒龍の好みのタイプだ。日本人にしては高い鼻梁、鋭い切れ長の双眸はどことなくレンに似ている。少し厚めの唇。男らしい骨格の顎のライン。炭を流したような漆黒の髪はオールバックだ。浅黒いなめし皮のような肌。写真でさえピンと張りつめた鋭く冷たい空気を纏っているのを感じる。しかもワイルドで男盛りの魅力に溢れている。
世羅の声がどんな風なのだろうかと想像すると、ぞくりと甘い戦慄が背中に駆け抜けた。
「なかなかいい男だぜ。だが、残念ながら、ノンケだけどな」
ウルフが黒龍の心を見透かしたように、笑いながら余計なことを付け足してくれる。
「ははっ。残念」
黒龍も冗談めかせて笑ったが、心の中では本気で落胆していた。
――落としたい。
本心では、狩人の本能に火がついてしまっている。この際ノンケでも食っちまうか? そんな邪な発想にとらわれる。打ち上げ花火のように一気に燃え上がって華々しく砕け散る。恋ははかなく散ってこそ美しい思い出になる。黒龍は本気でそう思っていた。そしてそれが信念だった。永遠の伴侶などいらない。その一瞬、燃え上がる劣情があれば、満足だった。その相手として、この男は申し分ない。いや、欲しい。欲望を掻き立てられた己自身におののいた。
「これが、世羅の側近、志野 。そして、こっちが女の純奈 。俺は純奈が経営するクラブでバーテンダーとして潜入捜査してる」
浮足立った妄想はそこで打ち切られた。側近の志野、世羅の女、純奈のイメージを頭に叩き込む。
「他に何かあるか」
ウルフは満面の笑みを黒龍に向けた。
「全員一筋縄じゃいなかいぜ。それはお前の目を通して見た方がいい。あと、他に従業員は田中 と的場 の二人だけ。株と投資、会社や土地を買って売りさばくM&Aの方は世羅と志野の仕事。残りの二人は射撃場や武器売買の管理ってとこかな」
魅力的とも言えるウィンクを投げてよこし、もう言うことはないとでもいう様にウルフは席を立つ。
出ていく男の広い背中を眺めながら、世羅の側近だと言う志野の写真を見続けていた。
なぜか心が不穏に騒めいた。
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