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第8話 第二章(2)

「志野と申します」  声はバリトンだがそれほど威圧感はない。手を出されたので、力強く握手する。ドクンと心臓が大きく跳ねた。その自分の反応に怖気づいてしまう。一体どうしたというのだろう。初対面の男の前で、何か得体のしれない不安を感じてしまう。 「社長を紹介しましょう」  志野が一歩後退ると、世羅が近くまで来ていた。写真で見る以上に男気があり、背も高いように感じ威圧感がある。 「世羅だ」と、手を差し出される。黒龍はそれを掴んだ。滑らかな肌の感触と反対に力強く握られた。 「トゥルー・ブルーから派遣された黒龍です。あなたの護衛も任されると聞いてますが」  落ち着いた声が出ていてひとまず安堵した。  世羅は表情も変えず、頷く。 「そうだ。だが、うちの田中と的場にもそれなりに闘えるように訓練をしてほしい。出来るか?」 「もちろん」  黒龍はそっちのほうが向いてるかもしれないと暴露する前に口を閉ざした。 「では、今から君の腕前を拝見させてもらおう」  世羅の言葉で全てを察した黒龍は車のトランクルームを開けに踵を返す。  そこから銃器が入った銀色の箱を運び、開け、3種類の銃を取り出した。 「小さい方から、GLOCK17、HK-USP、で、ライフルFR-F2それらを改造したものがこれだ」  銃の原形をとどめていない、器具とかした鉄の塊をテーブルに置く。 「まず、組み立てることから始める。弾丸はこれ」  3種類の箱に入った弾丸もその横に置く。 「よく見ておけよ」  黒龍はそう言うと、まずGLOCK17を組み立て始める。物の十秒ほどでそれは組み立てられ重曹が設置されると、狙いを定めトリガーを引く。一発撃つと次に取り掛かる。今度はHK-USPを組み立て同じように弾を入れる。そして一発撃つ。次にスナイパーのライフルFR-F2を組み立て次の的へ打ち込んだ。  5分も立たず全てを成し遂げ、世羅の方へ視線を向ける。  弾は的の中心部分を撃ち抜いていた。一ミリの狂いもなく。 「素晴らしい腕前だな、黒龍」  世羅の声が静かだった鼓動を早くさせた。 「それはどうも。それで……自分は合格なのか?」 「もちろん」  世羅はただ満足げに頷いただけだったが、黒龍は達成感を感じていた。 「では、明日9時に出社してきてください」  黒龍にそう告げたのは志野だった。志野の方に視線を向け、頷いた。どうもこの男には心が不穏な動きをしてしまい、混乱させられる。 「それでは明日、お待ちしてます」  志野がそう黒龍に告げると、世羅もその場を立ち去る。一瞬たりとも黒龍に視線を向けることはなかった。 「あっさりしたもんだな」  言葉が勝手に漏れていた。そこに残っていた世羅の部下二人は苦笑している。 「では、明日お待ちしてます」  二人が腰を折って頭を下げた。礼儀正しい二人に感動に近い衝撃を受けながらも黒龍はただ苦笑いを隠せず手を振った。  黒龍は銃を仕舞うと車に乗り込み、スタートボタンを押してアクセルを踏んだ。  追跡されていないか注意しながら本部に向かう。ここから目と鼻の先だ。  5分もかからず到着すると、取りあえず武器と車を地下の車庫に戻した。黒龍の仕事はほとんどがヒットマンで日本で仕事をすることはない。本部にはジムもあるし、バスルーム完備の 自分の部屋もある。アルジュンが作る旨い料理にもありつけることから、独り暮らしをしようと考えたことはなかった。  世羅の護衛を任されるとなると、毎回埼玉まで帰ってくるのは追跡されるリスクにもなる。 アルジュンに相談すればいい物件を探し出してくれそうな気もするが、黒龍は取りあえず考えるだけにとどめておいた。  出掛ける準備をし、自分の車のキーを取る。  今夜は人肌恋しかった。世羅のような欲情を掻き立てられる好みの男に出会ったことも原因だが、志野のことも気になり、心が乱されていた。気持ちを静めるには激しいファックが必要だった。暴力的なものなら尚更良い。激しく貫かれ凌辱されることを想像するだけで達してしまいそうだ。  全く困ったものだと、股間に視線を向ける。  発展場に行くか、それとも気に入っているゲイバーに出向くか。ま、思うままに今夜は振る舞うしかない。そう自分に納得させた。どっちがあたりか外れか、やってみなければ黒龍さえ予想はできない。  そう考えるとおかしくなって笑いが込み上げた来た。

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