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第23話 第五章(2)
翌日月曜日、世羅のペントハウスへ向かうために、非常階段を上がっていたところ、携帯が鳴った。
「黒龍、志野だ。駐車場で待機していてくれ」
通話にして開口一番そう言われ、何かあったのだと察した。
「了解」
理由を聞いている暇はないに違いない。黒龍は急いで階段を駆け下り駐車場に向かった。
すぐに世羅を連れて志野が車に乗り込んでくる。挨拶もそこそこに黒龍は車を出した。
「なにかあったんですか?」
バックミラー越しに志野と世羅の顔を交互に観察する。
「社内が荒らされていると田中から連絡があった」
志野の言葉に黒龍は頷いた。
空き巣だろうか? それにしても警報装置は鳴らなかったのだろうか?
現場を見て見ないことにははっきりしたことはわからない。警報装置が切られていたならプロの仕業だろう。車内は無言の緊張感が漂っていた。
出社してみると社内は惨憺たる有り様だった。ありとあらゆるものが床に散乱し、デスクの引き出しや、キャビネットの扉は開いたままだ。
世羅が社長室のドアの鍵を開け中に入ってみたところ、ここだけはどこも荒らされた様子がない。
「ここの鍵は開けれなかったようだな」
世羅の背後から黒龍は中をのぞいた。整然と片付けられた部屋の中が社内の荒廃した状態を見た後では異様に見える。
「不法侵入者が入った場合の警報装置は鳴らなかったんだな」
黒龍の言葉を聞き取った志野が、「解除されていた」と言った。
「なるほど、プロの仕業かもな。志野さんが盗られたものを確認している間に俺はここのセキュリティーの状態を完璧な状態にするよ」
黒龍はジャケットを脱ぐと、早速仕事に取り掛かった。田中と的場は散乱している物を片付け、世羅と志野は紛失物がないかどうかのチェックを行った。
全員が午前中いっぱいかけて、作業に取り掛かっていた。
「いったん外の空気でも吸って、昼休憩に出よう。ここにいるのもげんなりする」
社長の一声で全員手を止めた。
黒龍は既にセキュリティを復興させていた。
田中と的場はもう少し片付けてから出ると言うので、世羅と志野、黒龍は先に会社を出た。その段階で1時半を過ぎていた。
ビルを出て歩き始める。いつもと同じ日本食に向かっているのだろうと黒龍は推測した。惨事の片づけに3人とも辟易した状態だったので無言だったのだ。話すのも億劫だと言った感じだった。
黒龍は習性で周りに目を配り神経を研ぎ澄ませながら歩く。何のために会社を荒らしたのかまだはっきりわからない以上、警戒するに越したことはない。
ふと不審な男に目が留まった。数メートル先からこちらに向かってくる男の目は血走りぎらついている。これほど殺気立った空気を纏っていれば訓練を受けてなくても不審に思うに違いない。瞳孔の開いた瞳、両手をポケットに突っ込んでるが、ブルゾンのその部分は異様に盛り上がっている。視線は世羅を捕らえたままだ。
男がポケットから手を出したのを見たと同時に体が勝手に動いた。
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