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第24話 第五章(3)
「横の店に今すぐ入れ、行けっ!」
黒龍は世羅をカフェに向かって押した。志野は状況をすぐさま察したのか、世羅をかばうようにしてカフェの中に消える。
世羅を追いかけようとする男に足を引っ掻け倒し、素早く男を抑え込む。銃が男の手から離れ、地面をすべる。
「いい度胸だな。誰に雇われた?」
黒龍の問いに男は唸るだけで答えない。スマホを取り出したところで、白蛇の運転する黒いワゴン車がすぐそばで停まった。白蛇が出てきて男を取り押さえる。
「グッジョブ、黒龍」
愛嬌たっぷりにウィンクして、その腕を後ろ手にし、両手をテープで拘束した。男を立たせ、車に押し込む、時間にして1分未満。車の中で白蛇が男の両足をテープで拘束していた。
銃を拾った黒龍はそれを白蛇に渡した。
世羅が会社を出るのは昼食時と帰宅時だけ。緊急事項がない限り世羅は志野さえ社長室に寄せ付けず、誰かに指示を出しながら仕事をしている。
その昼食時を狙って待ち構えていた殺し屋、もしくはヤクザの鉄砲玉がいたのだ。黒龍は一流の殺し屋だ。殺気立った空気には誰よりも敏感に察知できる。
世羅を危険から回避するため突き飛ばした店は、いわゆるカフェランチがOLなどに人気のカフェで、その日もにぎわっていた。そんな場所に世羅と志野が所在なげにいる姿は危機的状況を打破した黒龍の緊張を解いた。
二人は黒龍を見ると席を立ち何事もなかったようにカフェを出て、昼食へ向かった。
いつもの行きつけの日本料理店でウナギのかば焼きを単品で3人ともオーダーした。それしか残っていなかったのだ。
「あの男が誰でどこの組が雇ったのかを突き止めたら必ず俺に知らせろ」
「もちろんです」
ウナギを頬張りながら黒龍は世羅に答えた。
こんな事態でも落ち着き払っている世羅と志野がとても奇妙な人種に思えてくるが、そもそも危険があるから黒龍が雇われたわけで、ある程度予想と覚悟があったのだろう。
金曜の熱いキスのことなどすっかり忘れているらしい世羅の顔を見ていると、黒龍の心は乱気流がやってきたように大いに揺さぶられてしまう。自分は週末悶々と過ごしたと言うのに世羅はすっかりそのことなど忘れてしまったようだ。
黒龍はうっぷんを晴らすかのように黙々と目の前に鎮座するウナギを敵のように食いつぶしていった。そんな黒龍を志野は静かに見ている。
「引っ越しは? 片付いたのか?」
「えっ、ああ、ほとんど必需品は揃ってたしね。あ、俺、あのマンションの3階のメゾネットタイプに引っ越したんです。これでいつ呼び出されてもすぐに行けるし、業務的に便利なので」
いきなり志野に引っ越しのことを振られ、意表を突かれたが、世羅に説明する機会を与えられ、黒龍はそれを有効に使った。
「モデルルームだった部屋か? ふん、なるほど。あの部屋は志野の所有だ。好きにすればいい」
そうだったのか――という意味を込めて志野の方に視線を向けるが、志野は能面のように表情を消したままこちらを見ずに黙々と食事をしている。知らん顔だ。黒龍は追及することを止めた。
「誰が世羅さんを襲ってくるかわからない状態なんで、出来るだけ純奈さんにマンションに来てもらう様にして、世羅さんは外出控えてください。緊急時以外はってことでお願いします」
世羅は肯定とも否定ともつかない表情のまま押し黙っている。志野も助けてはくれなさそうだ。
「俺に報告なしで絶対外出しないように。と言ってもあなたの動きは全て把握してますがね」
黒龍の挑発ともいえる言葉に世羅は見事に反応した。
「どうやって把握してるんだ?」
黒龍はニヤリを笑い、余裕がある風を装って少し間を置いて世羅の目を見据えた。
「俺はプロですよ。世羅さん。あらゆる手を使ってるに決まってるでしょ。俺の任務はあなたの命を護る。ただそれだけです。絶対に、殺られないように最善を尽くさせていただきます」
世羅は目を細め黒龍を見据えるように鋭い視線を向けた。
「ああ、わかってる」
世羅の低く腹の底に響くようなバリトンに神経が研ぎ澄まされ、快感のさざ波が全身に駆け巡る。どうしてこの男にこんなに心を揺さぶられるのだろう。手に入れることは無理だと感じれば感じるほど引き寄せられ、執着してしまう。
心が乱され、渇望してしまう。この男に組み敷かれ激しく抱かれることを。
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