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第26話 第五章(5)

 即座にドアを開ける。 「部屋間違ってるよ」  機嫌が悪いのか純奈に鬼のように睨まれ閉口した。 「あんたに会いに来たのよ。世羅の部屋に寄る前にサシで話したくてね」  ずかずかと中に入り、三和土でヒールを脱いで勝手に上がる。 「スリッパは?」  と、後ろにいる黒龍に振り向く。 「引っ越ししてきたばかりでまだないんだ」 「そ、まぁいいわ。酒くらい出してくれるんでしょうね」  革のソファに座って脚を組み部屋の中を見回しながらそう言う。なかなか様になる女だ。 「あのさ、俺酒は飲まないって知ってるでしょ」 「あれ、でも自分ちでは飲むでしょ。グダグダ言わないで出しなさいよ」  腕を組んで脚を組み黒龍を見上げてくる女にお手上げのポーズをとる。 「ジンかウィスキー」 「ジン。オレンジジュースがあればいいけどなければストレートで我慢してあげる」  黒龍は螺旋階段を上がり2階のキッチンの冷蔵庫からオレンジジュースのパックを取り出した。1階に戻りジンとオレンジジュールのカクテル、オレンジ・ブロッサムを作り彼女に渡す。 「おつまみくらいあるんでしょ」  全く女と言うのは! ため息を押し殺し、棚からピスタチオの袋とポテトチップスの袋を取り出し皿の上に置いた。  純奈が手際よく、袋から取り出す。 「ほら、つっ立ってないで横に座りなさいよ」  黒龍の眉間に深い皺が寄り、頬が痙攣する。  ――ここは俺の部屋だ!  そう言ってやりたいのをぐっと堪え黒龍は純奈の横に座った。 「で? サシで話ってなんだよ」  グラスを傾けオレンジ・ブロッサムを味わう様に一口飲んだ純奈は黒龍の方にゆっくり視線を向けた。その瞳は鋭く冷たい。何の感情も現れてないことに警戒心を強くする。 「世羅のこと。あなたと世羅がキスしてるの見て興奮しちゃったわ。誤解しないでほしいんだけど、嫉妬してるわけじゃないのよ。リュウ」  純奈は黒龍の日本名龍一を略してリュウと呼んだ。冷たい戦慄が背筋に駆け抜けたと同時に、幻像が脳裏をよぎった。  幼さが残る少年のリュウと亡き母によく似たレイラ。リュウはレイラに抱き着く。 『レイラ、レイラ、お願い、独りにしないで!』 『リュウ、どうしたの? 大丈夫よ。淋しいならあたしの部屋に来ればいいわ』  リュウの顔を覗き込んだレイラが安心させるように頭を撫でてくれる。 『うん。あ、あの部屋で独りでいたくないんだ』  レイラが優しく微笑む。 『リュウ、怖いならこれからあたしの部屋で眠ればいいわ』 『うん』  遠い記憶、母のような黒髪で黒い目のレイラ。母のように慕っていた人。  入れ代わり立ち代わり自分を犯しに来る女たちから逃れるためレイラの部屋に逃げる日々。その忌まわしい封印したはずの遠い記憶を黒龍は今思い出していた。

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