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第28話 第五章(7)

 翌日、世羅の部屋へ迎えに行ったとき、志野がリビングを片付けていた。かすかに残るアルコールの香りに息を止める。  寝室から出て来た世羅はいつもの通り、一糸乱れぬ完璧なスーツ姿だった。数時間前まで酒と女に溺れていたとは到底思えない。  襲われた後だったのだ、アドレナリンを鎮静するためにも激しいセックスだったに違いない。喉元に焼けるような嫉妬の塊が込み上げてくる。黒龍はごくりと生唾を呑み込むようにしてその黒い感情を押し殺した。 「おはようございます。では、行きましょう」  冷静を装い、世羅に告げる。世羅が目を合わせ頷く。  世羅がヴォルコフに憎しみを抱いていることを知った今なら、朝から黒龍の顔を見るのも不快に違いない。いったいどうして自分がこの任務に選ばれたのだろう?  レンは指名だと言っていた。もし世羅が黒龍の顔を知っていて、しかもヴォルコフの息子だと知っていながら指名してきたのだとしたら、今回の任務は複雑なものになるだろう。そのことをレンに報告するべきかどうか、黒龍は考えていた。  社内に着くと昨日の荒らされていたオフィスも元の通りに片付けられ、まるで何事もなかったように静まり返っていた。  黒龍はスマホを取り出し、アルジュンにメールした。白蛇が連れ去った男について何かわかったかもしれない。  すぐにアルジュンからラテン語で返信が来た。  ――あの男は橘組のチンピラで組の命令で世羅を狙った。  橘組――。そう言えば志野が橘組の組長は野心家で世羅を毛嫌いしていると言っていたか……。もしかしたら松尾と結束して世羅を仕留めれば若頭にしてやるとでも持ち掛けられたか。  これは今後の対策を決めておいた方がいいな。  志野の方へ視線を向けるとタイミングよく志野も顔を上げ黒龍の方を向いた。即座に黒龍の方が立ち上がり志野の机に近づいて行った。 「昨日の鉄砲玉、橘組の下っ端だって。どうする?」 「わかった、私から世羅に報告する」  ――なんだよ。一緒に作戦練ろうとかそう言う流れにならないのかよ。  落胆が顔に出ていたのか、志野が即座に付け足す。 「お前が必要な時は呼ぶ。社長室には私以外入るのを世羅が禁止してるから、悪く思うな」 「了解。じゃ、俺は朝のトレーニングに入るから」  気持ちを切り替え、ジムの部屋に向かった。  黒龍が着替えてジムに入ると、田中は体を慣らし始めていた。

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