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第30話 第五章(9)

「まさかここまで似ているとは……な。ヴォルコフに実際に会ったことはないが、写真で見た限り、お前とヴォルコフは瓜二つだな。その瞳の色、眼の形。真っ直ぐな高めの鼻、唇や顎ラインも」  世羅が話すと息が唇にかかりむず痒い快感に悶えそうになる。男根は既に形を変え始めていた。 「あんたがヴォルコフの暗殺をうちに依頼すれば、俺がとどめを刺してやる」  鼻先が離れたと同時に、初めて世羅が笑った、喉を鳴らして目尻に皺をよせて。 「まったくお前は。そんな簡単な話じゃない。殺して解決できるなら、俺の手でやってやるさ。目の前にやつが現れた場合の話だが。お前は早まってパパを殺すんじゃないぞ」  ヤクザとは思えない、人を諭すような言い方だった。 「俺は命令されなければ暗殺はできない。そういう決まりだから。どれだけあいつを殺したくても、依頼されなければ無理だ。しかも隊長の采配次第だし」 「そうか。ヴォルコフはよほど悪運が強いんだな」 「ああ、嫌われ者は長生きするって言うだろ」  発作的笑いから立ち直った世羅が、黒龍の耳朶を覆うように宛がった両手に力を入れ引き寄せた。今度はお互いの額と鼻先が重なる。このまま顔を斜めにしてキスしたい欲望をこらえるのに黒龍は必死だった。心が乱される。 「ヴォルコフはホモファビアだろ。お前がゲイだと知っているのか?」  自分の心臓の鼓動の音が大きく鳴る。耳を押さえられているから余計だ。世羅が話すと、息がかかる感触にいちいちぞくりと背中が震えた。 「知ってる。俺はあいつを苦しめるために、宣言してやったよ。お前のせいで女相手じゃもう反応しなくなったってな。」 「ふん。面白いめぐりあわせだな。ホモファビアの男の息子がゲイ。そして俺はどうしてもヴォルコフを打ちのめしてやりたいと思ってる。お前をいたぶって抱けば、少しはこのどす黒い怒りが静まるかもしれないが――」  世羅の声は低く、腹の底に響くようだった。黒龍は咄嗟に顔の向きを変え唇を重ねその先を言わせなかった。世羅と二度目のキスだ。純奈の店で舌を絡ませあい、挑発し、倒錯的なキスに酔った。あの時と同じような興奮に突き動かされる。両手を世羅の腰に回した黒龍は手に力を入れ引き寄せ、硬くなった股間を世羅のものに擦りつけるように動かした。  うめき声と荒々しい息遣いがお互いの舌を絡ませるたび口内を振動させ、快感となる。黒龍の股間は張りつめスラックスの生地を押し上げていた。世羅の欲望にも火が付いたことをその硬さで察した。前回は純奈が口淫していたが、今は黒龍とのキスで興奮し硬くさせているのだと思うと、一気に欲情を煽られ暴走してしまいそうになる。それをぐっと抑えるのに黒龍は必死だった。世羅から伝わる熱、発散される匂いに陶酔し、それが媚薬となり黒龍を煽った。  ――どうしても世羅が欲しい。

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