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第33話 第六章(1)

 オレンジ、ブルー、ピンク、グリーン、イエロー、天上の照明がゆっくりと色を変えている店内はまだほとんど客がいない。  ここに来るのはこれで2度目だ。  純奈がママを務める高級クラブのホステスのほとんどは外国人だ。金髪、青い瞳、乳白色の肌のロシアン美人が揃っている。  カウンターに座ると琥珀色の液体が入ったグラスが差し出された。匂いを嗅いで確かめる。ウーロン茶だ。  ちらりとバーテンダーに視線を向けると、蒼い瞳とぶつかった。ウルフが近づいて来る。 「ママを呼びましょうか」  流ちょうな日本語だ。オールバックにした短髪、バーテンダーのトレードマーク、黒のベストにボウタイが良く似合っている。いつものチャラけた感じではなく、美形のジゴロと言った感じだ。 「出てくるまで待っているよ。どうせ俺が来たって言ってもすぐ来ないだろう。ところで、君、名前は?」  ウルフを少しからかって時間を潰すつもりだった。 「クリスです」 「ふぅーん、この店は金髪、青い瞳が採用ポイントなのか?」  ウルフが控えめに喉の奥の方で笑う。 「まぁそうでしょうね。オーナーの好みなんでしょう」 「世羅さんの? ここは世羅の店なんだろう?」 「ええ、そうですが、実はロシア人が出資していているという噂も……」  ウルフが意味深な視線を投げかけてくる。それに黒龍は知っているという意味を込めて頷いた。 「あら~、今日は一人なの?」  見事なプロポーションが映える赤いチャイナドレスに身を包んだ純奈が現れ、黒龍の横に腰かけた。 「まあね」  純奈は気だるげに頬杖をついて黒龍の顔を覗き込むと、しばらく観察し意味深にほほ笑んだ。 「あたしに何か言いたいことがあって来たの?」 「ああ」 「じゃあ個室で話を聞きましょうか?」  今日は嫌にご機嫌な様子の純奈に黒龍は警戒心を強めた。 「そうしよう」  グラスを持ち、ちびちびと飲みながら、純奈の後に続く。前回世羅と一緒に入ったボックス席に連れて行かれ、即座に脳内リプレイが起動し始める。あの時の世羅を思い出すと昨晩あの男に貫かれ、強い悦楽を得た体が疼きだしてしまう。  純奈が黒龍の横に腰かけた。この前の世羅と同じポジションだ。 「さてと、ここは盗聴されてないからロシア語でも日本語でもなんでもいいわよ」 「店内は盗聴されてるのか?」 「まあね。このボックス席だけは妨害してるってだけ」 「誰に盗聴されてるんだ。ヴォルコフか?」  純奈が声を出して笑い出した。甲高く少しヒステリックな声だ。わざとだろうか? 神経をとがらせているそんな演技をしているようにも思えた。 「今更隠しても仕方ないわね。そう、その通り、ヴォルコフは誰のことも信用していない。だから至る所に盗聴器やスパイを忍ばせてるってわけ」  純奈が黒龍の肩に手を回し、体を摺り寄せてくる。身を引こうとしてしまうのを黒龍は堪えた。

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