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第36話 第六章(4)

 嘉納組長は未明息を引き取った。  水を打ったように静まり返った病院の廊下の壁際に整列し起立した男たちは身動きせず、誰も一言も話さない。一時停止したようなその状態を黒龍は傍観していた。異様な風景だった。嵐の前の静けさと言える。  嘉納組長の病室には松尾、桐生、世羅の3人と、嘉納の側近がいる。黒龍の横には志野が立っていた。  4人の男が出てくると解散となった。  うるさいだけの印象の松尾でさえ一文字に口を引き結び一言も発さず、舎弟を連れて早々に帰っていった。松尾の姿が見えなくなると、一歩前を歩いていた桐生が立ち止まり世羅に振り返ると、合図のように頷き、何事もなかったように立ち去った。  世羅は沈黙を守り続けている。相変わらず表情からは何も読み取ることが出来ない。  一旦マンションに戻り、シャワーを浴びて着替えることになった。  世羅の部屋にいつもの時間に迎えに行くと、いつものように志野が先に来ていた。 「中に入れ。少し今後のことで世羅から話がある」  志野が靴を脱いで入るように黒龍に目くばせする。  世羅はキッチンカウンターでコーヒーを飲んでいた。志野と黒龍を見て微かに頷く。 「1ヶ月後に桐生が組長に就任する。今の段階で知らされたのは、松尾、桐生、俺だけだ。これで俺に危害が加えられることはなくなった。桐生が狙われる可能性が高くなった」 「そうとも言えない。あんたは橘組に狙われている。時期若頭補佐は世羅さんだろ。もしかしたら若頭ってこともあり得る。そうなると若頭補佐の椅子を狙う橘組だけじゃなく、松尾にも狙われる可能性はまだ捨てきれない」  世羅が聞き終わるとゆっくり椅子から立ち上がり、黒龍の目と鼻の先に立つ。2日前の残像を見ているような気分になる。息を止めれば心が乱されるのを防げると信じているように黒龍はぐっと息を止めた。 「そんなかっかするな。お前が俺の命を大事にしてくれているのは知ってるよ」  ぐっと肩を掴まれる。  ドキンと鼓動が大きく打ち付けた。掴まれた肩は世羅に歯型を付けられた方だ。黒龍は動くことを忘れてしまったのかと思うほど、何のリアクションもできず固まっていた。  関係を持った後、逃げるように世羅の部屋から飛び出して以来初めての接触だった。 「私も黒龍の意見に賛成です。今後も注意は必要です」  志野が見方をしてくれたようだ。 「それで、ブラトーバはどうする? ヴォルコフは? 何か考えがあるのか? 世羅さん」  嘉納が亡くなったことは今日中にヴォルコフの耳にも入るだろう。一刻も早く行動を起こすべきではないのかと黒龍は懸念していた。 「ああ、手は打ってある。ヴォルコフにもブラトーバとは打ち切だと伝えた。問題は起こすなとも。こっちは龍一を人質にしてると言っておいた」 「なんだって!?」  それ以上の言葉が続かず、瞠目した表情のまま世羅を凝視するしかできない。

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