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第38話 第六章(6)

 世羅はオフィスに着くといつも通り社長室にこもった。田中と的場には志野の方から説明があり、その間黒龍はアルジュンにメールしていた。  ――世羅の過去を調べるべし。ヴォルコフと世羅との関係。世羅が偽名の可能性もある。  何か大きな組織が絡んでいるような気がして仕方ない。いや、そうでなければ辻褄が合わない。ヴォルコフが抹殺したいと思えるほどの人物は政治家、または、裏社会の大物でしかない。  世羅の父親がそんな大物なら、すぐにわかるはずだ。世羅と言う名は偽名に違いない。  黒龍は少し落ち着きを取り戻し、世羅について考えを巡らせた。  ――世羅仁人……あんたはいったい、何者なんだ?  テーブルの上に放置していたスマホが振動する。アルジュンからの返信だった。  ――調査不可能。世羅仁人の過去はなし。突然現れたに等しい。偽名に違いないが、レンにこれ以上の追及は不可だと拒否された。  何だと――? なぜ? なぜだ?  軽くパニックになる。どうしてレンは世羅の素性を調べることを拒否する? まさか、レンは世羅が何者かを知っている――?  一体どういうことだ。一刻も早くレンに直接確認したい衝動に駆られる。黒龍は指が動くまま白蛇にメールした。  事情を簡潔にラテン語にしたため送信する。  10分後、返信が来た。  ――落ち着け。今は動かない方がいい。もし、世羅がマークされた人間なら、誰かが極秘情報、機密情報にアクセスするのは危険だ。  白蛇のメッセージを読み、心を落ち着ける。白蛇の言う通りだ。騒ぎ立ててはいけない。今この時に、危険すぎることを再認識する。  ――了解。  とだけ打ち込み、返信した。  感情的に動いてしまったことに衝撃を受けていた。暗殺の仕事は集中力が物を言う。成功を運任せにする者も多いが黒龍はプロに運が悪かったは通用しないと考えている。同時に運が良かったから任務が成功したと言われることは屈辱となる。  己の腕にかかっているヒットマンの仕事に対して、護衛の仕事がこれほど感情に支配されるものだとは思いもしていなかった。いや、世羅に惹かれてしまったから、そしてその裏に父のヴォルコフが絡んでいるから。これほど自分を見失うのだ。  葬り去った過去が鮮明によみがえる。  母は日本人だった。バレエ留学でロシアに渡り、妊娠し帰国した。17歳で黒龍を産んだ。父親がヴォルコフだと知ったのは母の死後だった。  交通事故で突如この世を去った母の葬儀後、ヴォルコフが現れ自分が父親だと言った。母には弟がおり、黒木寿志(ひさし)と言った。黒龍は寿志になついており、その時も寿志に手を引かれていた。  父と名乗った外国人は、有無を言わさず黒龍をロシアへ連れ去った。10歳だったときだ。  それからはロシア語、フランス語、英語を徹底的に教え込まれた。12歳になった頃、熟睡していた黒龍は、体を弄られている感触で目が覚めた。20代の名も知らない女だった。その女は黒龍のまだ幼い体を撫でまわし快楽を与え精通させた。それ以来、毎夜入れ代わり立ち代わり女がやってきては黒龍の体を自由にしたのだった。

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