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第40話 第六章(8)
懸念したほどの騒動はなく、何事もなく一日が過ぎていった。
貫徹だというのに眠気に襲われることもなく、ピリピリした状態で一日を終える。疲れよりもアドレナリンが昂りすぎて、今夜も眠れるかどうか怪しい。
マンションに世羅を送り届けいつものルーティンをこなす。世羅を問い詰めたい気持ちを抑え、外出はしないように告げ、志野と立ち去った。
「うちに寄るか?」
志野の家に寄って食事をして詳しい事情を聞きだしたい衝動に駆られるが、疲れ切った志野の声を聞くと志野も貫徹だったのだと思い出した。それに今夜は白蛇が連絡をよこすに違いない。
「いや、志野さんも疲れてるだろ。俺はちょっと一人で考えたい。そのうちしっかり話を聞くからな」
20階まで階段を降りたところで、黒龍はそう言った。
「ああ、じゃあまた明日な。お疲れ」
手を軽く振るようにして志野はフロアに入っていった。
そのまま階段を使って3階まで下りた。
黒龍は料理はしない。コンビニで買ってくるか、近所のラーメン屋に行くか、そんな感じだ。
冷蔵庫を開けると、おにぎりと、チーズしかない。何という組み合わせだ。
しかし、腹を満たせれば文句はないと割り切り、コンビニのおにぎりを食べる。それをペットボトルのウーロン茶で流し込む。
チーズとビールを持って、リビングへ向かった。ソファにどさりと腰を掛ける。まだスーツ姿のままだ。
着替えるのも面倒で、とりあえずテレビのリモコンを付けた。
黒い車が病院らしき敷地からから出ていく映像が目に飛び込んでくる。アナウンサーが広域指定暴力団東陣会、嘉納組長死去を告げていた。うんざりし、ザッピングする。しかしまた同じような映像が流れ、今度は警察関係者がコメントしている。警察も神経を高ぶらせているということだろう。暴力団同士、一触即発の状態で、いつ闘争が起こってもおかしくないと想定している――と、語っている。そして時期組長の予想を始めた。
辛抱強く、チャンネルを変えていきながら気を紛らわせようとしたが、全く無駄だと悟り、テレビを消す。
ローテーブルの上に置きっぱなしのタブレットを手に取り、ヴォルコフに関しての記事を探す。ロシア語、英語圏、フランスのニュースを片っ端からあたった。
黒龍がKGBを辞めた後から、父とは疎遠になっている。ニアミスでも顔を合わせたことはない。
しかしヴォルコフは黒龍を監視しているに違いなかった。
――蛇のように息を殺し待ち続け、隙を狙って襲い掛かり必ずお前を連れ戻す。私にはお前が必要だからな。若いうちに好きなことをやっておけ。
KGBを辞め外人部隊に入隊するために渡仏する直前、本人にそう警告されたのだ。しかも、意味深に笑いながら。
タブレットの画面から顔を上げソファの背にもたれる。
ヴォルコフのニュースなど皆無だった。
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