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第41話 第六章(9)

 KGB長官のニュースなど、汚職や問題がなければ浮かび上がってはこない。リークされる前に踏みつぶしているのだから簡単には見つかることはないのだ。  次の検索ワードを考えているとインターホンが鳴った。モニターに映し出されている顔は白蛇だ。解除を押す。しばらく待って、玄関を開けると丁度目の前に白蛇が立っていた。 「タイミングよすぎ! びっくりするだろー。あ、焼き鳥と、スペアリブ買ってきたよ」 「お、いいねーいつもありがと、白蛇。ビール飲む? うちに泊まってけばいいしさ」 「お、サンキュ、じゃあ遠慮なくのもっかな」  白蛇は韓国系日本人で、酒はやたらめったら強い。酔ったところを見たことがないくらいだ。エラが這ったベース型の顔立ち、筋肉質のマッチョな体。身長は170センチで黒龍よりも長い肩まで届く長髪を後ろで一つに結んでいる。料理が趣味のような男で、なぜ黒龍が白蛇の家にいたがるのかというと、旨い飯にありつけるからだ。 「ウルフも呼んでやればいいのに。あ、でも任務で仕事か」 「あーそうだな。考えてなかったけど。ま、この任務が終わるまでここには来ない方がいいだろ」 「そうだねー」  いつもの軽い口調で相槌を打つと、白蛇は袋をソファの前のローテーブルに置いた。黒龍は螺旋階段を駆け上がり、2階のキッチンの冷蔵庫から良く冷えたビールの缶を取り出し戻る。  ソファに座っている白蛇は袋からいい匂いをさせている物質を取り出していた。  二人仲良くソファに座って食べ始める。  食事をしている間は食べることに集中する。それが白蛇のルールだ。それをよく知っている黒龍は自然とそうしていた。 「言われたとおり、盗聴しかけといたから」  ビールをぐびぐびと豪快に飲み終えたところで白蛇が言った。 「ありがとう」 「しかし、あれだな、どうも匂うっていうか、気持ち悪い」 「気持ち悪い?」  黒龍が白蛇の言葉をなぞり顔を覗き込む。 「うん、なんか、魚の骨が喉に引っかかったような、そんな気持ち悪さ」 「あー、わかるような……わからないような……」  黒龍が苦笑すると、白蛇が口角を上げ嫌味な笑みを作った。 「だってさ、隊長は全部知ってるんだよ。ヴォルコフが絡んでること、しかも指名してきた世羅がヴォルコフに恨みを持ってることだって。気味悪いだろ。隊長のことは信頼してるし忠誠心は揺るがないけど……今回の任務は……なんか気持ち悪い」  白蛇の言葉を脳内でアナライズする。確かにその通りだと黒龍も納得した。何かが引っ掛かる。それを気持ち悪いと表現する白蛇の気持ちもわかる。 「世羅が……何者なのか、どうしても知りたい」  白蛇を見ずに黒龍は告げる。 「いいよ。僕は、常に龍の側だ。どんなことがあっても龍の側。それが相棒だと思ってる。僕を頼っていいよ。ダメなことはダメだと言うし。できることは最大限協力する」  黒龍が白蛇の方に振り向き視線を重ねる。二人で微笑み合った。 「なんだよ、お前俺に惚れてんのかよー」  黒龍の冗談に白蛇はおなかを抱えて笑い出す。 「ひぃーもうそういうとこ大好きだから。龍ちゃん。しかし龍は真面目だよねー僕ならそこまで真剣に任務以上のことには手を出さないけどね。よほど世羅が気になるんだね」  その通りだった。  世羅だけでなく、志野も、そしていまや田中や的場でさえ護ってやりたくなる。ヤクザが皆こんな風なのかは知らないが、田中や的場の真摯に物事に取り組む姿勢に触れるたび、どこか違和感を持ってしまう。ヤクザのような裏社会に居なければ、もっと違った世界が開け たはずなのにと、思わなくはない。  もうすでに、世羅の会社の社員にさえ情のような気持ちを持ってしまう自分自身に、黒龍は不安を感じていた。 「潜入捜査さえしたことないし、今回は護衛だし……初めてのことで戸惑ってるだけだ。白蛇やウルフのようにどこまでドライになるべきなのかわからない。護衛には向いてないよな」 「さぁ……。どうかな。護衛はクライアントの命を護るために自分の命さえ張る。そう言う意味では心酔しているような相手でないと割に合わないと思うけど。僕はさ、龍みたいに、スナイパーの腕があるわけじゃない。軽い性格だし。前線よりフォローする方が向いてるんだ。だから、この任務では龍と世羅から目を離さない。隊長が許可しなくとも必要とあらば何でもする気持ちはある。けれど今回みたいにダメな時はそう言う。それでいい?」  黒龍は白蛇の腕を叩き、笑顔を向けた。 「よかった」  白蛇が笑みを返してくる。ビールの勘を掲げ乾杯した後二人はもう任務の話には触れなかった。

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