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第45話 第七章(4)

 従業員専用のドアから裏に出ると階段を下り、地下へ向かう。何度か鍵を使ってドアを開け、最後のドアを開けるとそこは部屋になっていた。机といすが数脚。まるで取調室だ。  その狭い部屋にいる男の顔を見た黒龍は奥歯を噛みしめた。  予想が的中した。  目の前に世羅が壁に背を預けて立っていた。その横に志野もいる。 「30分だけです。それまでに消えてくださいよ」 「ああ、ありがとう。木崎」  世羅が軽く手を振るようなジェスチャをした後、黒龍に座るように促した。 「なんであんたがここにいる? あの男はあんたの部下か?」 「まぁ座れ」  真っ直ぐ見つめられると、反抗心が途端に薄らいでしまう。この男の視線を浴びているだけで神経が焼かれたように熱くなり、体は勝手に言う事を聞いてしまう。  黒龍が椅子に座ると、世羅は対面に座った。志野は壁際に立ったままだ。  世羅の目を真っ直ぐに見つめたまま黒龍は待つ。この男が何を望んでいるのか黒龍には全く想像もつかない。自分の想像では、黒龍は世羅の思い通りに動いているつもりだったのだが、そうではなかったのか? 「俺が喜んでお前をロシアに行かせると思っているようだが、全く持って見当違いだ」 「見当違い? わけがわからない」  世羅がいつものように片方だけ口角を上げ目を細める。 「お前をヴォルコフの元には行かせない。もちろん殺させもしない」 「理由を聞かせてくれないのか? あんたは復讐したいんじゃないのか?」 「ああ、したいさ。ただ殺すだけならとうの昔にやってる。それこそ蓮に任せれば済む話だ。しかしそんな簡単な話じゃない」  世羅の視線にがんじがらめにされている状態で、全く話がつかめないことに黒龍は苛立ちを隠せなくなった。ちっと舌打ちし、落ち着くために世羅から視線をそらし志野の方を見る。志野はいつになく真剣な面持ちで宙を睨みつけるようにして立っている。 「だから、どうしたいんだよ」 「ヴォルコフを苦しめる方法。それはただお前に憎まれながらに会えずに死ぬことだ。ヴォルコフは放っておいても半年以内に死ぬ。末期がんだ」  ごくりと唾を呑み込む音が嫌に大きく鼓膜に響いた。  ――末期がん。だから何だ? あの男を殺そうと思っていたのに、半年以内に死ぬと聞かされてどうして俺は放心してるんだ? 「ショックみたいだな。どんなに卑劣な男であってもお前の父親だ。しかもお前を溺愛している」 「ふん、あいつが俺を溺愛してるだって? 12歳だった子供に夜這いさせるような男だぞ! ヴォルコフの血を途絶えさせない為に、12歳の息子の子供を作らせようとしたんだ。何も知らない子供に性的虐待させる親が、息子を溺愛してるだと? ふざけんな」  初めて声を荒げ罵倒した。今まで一度もこんな風に感情的になったことなどなかった。自分を律し続け、心の静寂を保てる強い精神力を誇っていた黒龍にとって衝撃的だった。 「ああ、溺愛を通り越して偏愛だな。特にお前の母親を愛しすぎていた。ヴォルコフは自分の血を途絶えさせたくないんじゃない。お前の母親、チズの血統を途絶えさせたくなかった。お前はチズの忘れ形見。それを失うことがどれほどあの男を苦しめることか、ここにいる志野が良く知ってる」

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