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第50話 第七章(9)
髪を優しくなでられる感触に意識が一気に覚醒しうつぶせに寝ていた状態から顔を上げた。
横を見ると、肘を立てて頭を支えながらこちらを見ている世羅の瞳とぶつかった。
今目に映るものが現実なのか夢の中なのかはっきりしない。世羅が自分のベッドにいる。ここは明らかに黒龍のベッドルームだった。
「おはよう」
低く掠れたセクシーな声。世羅の声だ。
「お、おはよう。まさか、ここで寝たのか?」
「ああ、そうだ。一緒に寝落ちした。俺の方がちょっと前に目が覚めたがな」
1階のリビングで2回目を終えた後、バスルームでまた激しく繋がり合った。ベッドになだれ込んで、そのまま寝落ちしたのだ。
「俺はお前のように、勝手に帰ったりしないんだよ。終わったらさっさと帰りやがってムカつく男だ」
最初のあの日のことを持ち出され、少しうろたえる。
「俺が黙って帰ったから、ムカついたのか?」
「ああ、まるでやり逃げされた気分だったな」
予想外の言葉に瞠目する。
「やったのはあんただ」
「俺を挑発したのはお前だ。なぜ逃げるように帰った?」
「うっ――」と、言葉を詰まらせる。なぜって、世羅が嫌がると思ったからだ。
「なぜって、だいたいノンケは終わった後怖気づくものだ。やってるときは快楽に夢中になってるけど、吐き出してしまえば冷静になる。男とやってしまったことに嫌悪するものだ。だからあんたもそうなって……俺に怒りをぶつけてくるんじゃないかと思ったから。そうなるとほら、面倒くさいだろ」
本当は、世羅に侮辱され罵倒されるのが怖かったからだが、それは言えない。
世羅は首を傾げ考え込んでいる。そして、首を横に振った。
「悪いが、俺はそんなことはなかった。お前が消えていてムカついただけだ。男と寝たのは初めてだが……嫌悪も羞恥も感じなかった。ただ……」
世羅が言葉を濁したので黒龍の方が続きが気になって仕方がなくなる。
「ただ?」
先を急かすようにリピートする。
「ただ、あまりにも強烈な体験で、女を抱けなくなるんじゃないかと不安にはなったな」
あまりに世羅が真面目に言うので黒龍はプッと吹き出してしまう。それを見た世羅が眉間に皺を寄せた。
「何がおかしい?」
「いや、何か、あまりに落ち着いてるから。俺はいつでも相手になるよ。あんたが女がダメになったら、その時はお祝いしようぜ」
世羅が声を出して笑う。滅多に笑うことのない世羅の笑い声に黒龍は心が溶かされてしまいそうになる。目尻の皺も、笑うと喉が震えるのも、堪らなく好きだ。この男のすべてに惹かれている。暴走しそうになる気持ちを抑えるのは簡単にはいかないに違いない。
「俺はお前が逃げないようにせいぜい体を張って繋ぎ止めておくことに専念するさ」
黒龍が何か言い返す前に世羅がのしかかってきて、唇を奪われた。仰向けに寝かされ肌を擦り合わせてくる。お互いの熱で欲望が目覚め始めるのは簡単だった。朝の生理現象で形を変えている雄は更に大きさを増し、屹立し、お互いの体の間で重なり合う。
世羅の手が黒龍の髪を梳くように撫でる。頭皮をマッサージされるようなその心地よさに恍惚となる。
舌を絡ませ、時折いたずらに口蓋を舐められ、震えるような快感が背筋を駆け抜け腰が痙攣した。それと同時に世羅の雄に己の雄を擦りつけてしまう。それがあまりにも気持ちよくて腰を動かすことを止められなかった。
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