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第52話 第八章(1)
「ねぇ、あたし最近世羅に呼ばれなくなったんだけど、なぜなのかしら?」
純奈がからかう様に黒龍の顔を覗き込み開口一番そう聞いた。
突然、店に来いと呼び出され、世羅をマンションに送り届けた後、純奈の店にやってきたのだ。無論長居はできない。
なぜなら世羅は黒龍の部屋に毎日のようにやって来るからだ。
黒龍は世羅の部屋に送った後残る方が良かったが、また勝手に帰られるのには耐えられないと言われ、世羅が黒龍の部屋に通うようになった。朝まで一緒に居て朝食を取った後、早めに世羅の部屋に戻る。それがルーティンになりつつある。
今夜、純奈に呼び出されたことも黒龍は律儀に世羅に報告していた。
「まぁそれはあれだ、忙しいんだろ。それにさ、組長問題が収まるまで、世羅の女のあんたにも、もしかしたら火の粉が飛ぶかもと思ってるんじゃないの?」
純奈が腹を抱えて笑い出す。ごもっともだと思う。どれほど純奈が使えるスパイか知らないが、そこら辺のヤクザよりは強いに違いない。自分で自分の身は護れるはずだ。
「あんた、面白い事言うわね。まったく、こんなに笑ったの久しぶりよ。いいのよ、はっきり世羅はあんたと寝てるからあたしは必要ないだけだって言ってくれて」
目尻に涙を浮かべながら笑っている純奈を凝視する。
「本気で言ってんのか?」
黒龍自身今の純奈の発言に疑心暗鬼だった。
「もちろん。言ったでしょ。あたしは世羅に特別な気持ちはない。ヴォルコフにも同じく。ヴォルコフはね、あんたのママを、チズをずっと愛し続けているのよ」
そう言った純奈の表情の愁いに、黒龍は眉を顰める。つまり、純奈は本当は、黒龍の父、ヴォルコフを愛しているのではないのか……? そんな疑問がよぎった。いや、確信に近い疑問だ。
「あたしね。チズとはとても親しかったの。同じ黒髪、体型もよく似てたし、アルが……、ヴォルコフが、あたしをチズの代わりにしようとしたのはよく理解してるのよ」
なんとなく、想像が出来た。母の死後、父は純奈を、母と似ている純奈を求めた。癒されるために。そして、純奈は純粋にヴォルコフを愛していたに違いない。身代わりだと知りながら……。
「あいつが余命半年って……知ってるのか」
純奈が顔を上げ黒龍を見る。
「ええ、あたしがその情報を世羅に流したのよ。世羅にリュウを近づけ、あなたの意思でヴォルコフの死に際に会えればそれでいいし、会えなければそれも運命。そう思ったの」
黒龍は純奈の方に振り向きその目を覗き込む。
「あんた、俺にどうしろって言うんだ? 俺はゲームの駒じゃねえぞ。俺は仁に、世羅に言った。ヴォルコフには会わないと。だから会わない。そのせいでどうなろうと、世羅の命だけは護る」
純奈の瞳が揺れるを黒龍は固唾をのんで見つめていた。決して見ることのなかった純奈の心を見たような気がして、目が離せなかった。
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