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第55話 第八章(4)

 桐生が銃弾に倒れ、病院いることを知らされた世羅は直ぐに黒龍を連れ病院へ向かった。志野には待機しているように命じていたのを黒龍は横で聞いていた。  桐生を襲ったのはおよそ松尾が雇った殺し屋、もしくは橘組の手下だろう。  桐生は一発銃弾を受けたが、護衛が犯人を押さえた。身元が割れるのは時間の問題だ。  トゥルー・ブルーの備兵を使っていなければ桐生は生き延びていなかったに違いない。  そう黒龍は見ていた。松尾は桐生の護衛を甘く見過ぎていたようだ。桐生は弾丸を肩に掠めただけで大した傷ではなかった。 「大丈夫だと言ったのに。お前に連絡したようだな。すまない」  病室に入ってきた世羅に桐生は開口一番そう言った。 「いえ、元気そうで何よりです。取りあえずあなたは意識不明の重体になってもらいます。あなたが重傷で危ない方が身の安全が確保できるので。言うことを聞いてください」  桐生が渋面で世羅を睨みつける。しかしすぐに笑みを作り頷いた。 「お前の言う事はいつも正しいよ。癪に障るくらいな。トゥルー・ブルーを使うことも正しかった。さもなくば俺は今頃あの世だった」  黒龍の方をちらりと見た桐生が微かにほほ笑む。黒龍はただ頷いた。 「当分面会謝絶にし、ここにあなたの代替えを用意します。あなたはリンの所で身を隠してください」  黒龍の前でリンの名を初めて世羅は言った。 「わかった」  桐生は大人しく言う事を聞くことに決めたようだ。  黒龍は余計なことを言わずに桐生を病院から抜け出す事に手を貸した。  白蛇の報告の通り、リンは同マンションの18階の黒龍と同じ3階からなるメゾネットに住んでいた。黒龍を見ると警戒心を露わにした瞳で見据えてくる。  年齢不詳。165センチほどの小柄な華奢と言っていいほど細い体。栗色の髪は滑らかなウェーブ。黒縁の眼鏡、大きな琥珀色の瞳。西洋人の血が混じっていると思うほどの白い肌に彫りの深い顔立ちの美青年だった。  桐生を見た途端駆け寄る。 「大丈夫?」 「かすり傷だ。リン、心配することはない」 「で、でも……」  不安げな表情で世羅に視線を向ける。 「大丈夫だ、リン。当分桐生は重傷を負い病院の集中治療室にいることになっている。ここで大人しくしているように見張っていてくれ、リン」  リンが安堵したように世羅に微笑んだ。そしてその横に立つ黒龍に視線を向けるとまた眉間に皺を寄せた。 「この人だれ?」  警戒心剥き出しの表情で、黒龍を顎で指し世羅に聞く。 「俺の護衛で黒龍だ。黒龍の同僚が桐生を護ったんだ」  その一言でリンは態度を変えた。 「僕は、凛太朗(りんたろう)。みんなリンて呼ぶ」 「黒龍だ」  手を出すとおずおずと握手する。まるで猫のようだと黒龍は感じた。警戒心剥き出しの猫。慣れるとすり寄ってくる可愛い獣。  その時足元に小さな衝撃を受けた。下を見るとまさしく猫が黒龍のスーツのスラックスに毛をつけ、マーキングしながら頭を擦ってきていた。 「テティス。こっちにおいで」

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