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第67話 第十章(2)

 志野の部屋を調べたのは翌朝だった。あのまま、世羅の部屋で疲れ切って意識を失う様にして眠り、早朝の差し込む日差しで目が覚めたのだった。  志野の部屋も同じように何も変わりなかった。同じような日常をこなすいつもの朝だったことをその部屋は語っている。  危機感もなにもなく、二人は出勤しそして不意打ちで会社に仕掛けられた爆弾で爆死した。  その事実を目の前に突き出されても黒龍は受け入れることが出来なかった。  会社があるビルに向かった。外から見るとその場所だけが黒ずんでいる。現実に起こった爆破だったのだと初めて自覚した。説明つかない感情が溢れだす。怒りだった。自分の判断ミスだという後悔の念。ここに自分がいれば救えたのかもしれない。危機を察することが出来たのかもしれないと言う後悔だった。  そこで、白蛇の存在を今の今まで忘れていたことに気づいた。  白蛇は世羅を護っていたはずだ……まさか……!?  階段で会社まで向かう間に白蛇の携帯に電話をかける。すぐに相手の声が聞こえた。 「ハイ、龍、いまどこ?」  酷く掠れた声だった。 「世羅の会社に来ている」 「そこはいいから、本部に直行しろ。そこは僕が調べ尽くしてる。その情報もあるし、隊長と話をするのが先だ」  黒龍はやっとまともに頭が動き始めた。  当然だ。レンは、隊長は世羅の弟なのだ。黒龍が動き出す前に捜査に乗り出しているに違いなかった。感情のままに余計な時間を使ってしまったことに茫然自失になる。自分を完全に見失っていたことを思い知り、我に返った。 「わかった。すぐ向かう」  黒龍は焼け焦げた会社から踵を返し、本部へ向かった。  埼玉の山の中を運転しているうちに黒龍の心は静寂を取り戻していた。最悪のニュースを耳にし、日本に帰国し今に至るまで、正常な精神ではなかった。その結果少し時間を無駄にしてしまったことは否めない。  しかし自分の失態にくよくよしている時間はない。気持ちを切り替え、メンバーが突き止めた現実に向き合う覚悟をしなくてはならない。  門を通り抜け、地下に車を停めると、リビングへ直行した。  そこにはレンと白蛇、ウルフがいた。  いつもなら我が家に帰ってきた安堵感を覚えるのだが、今は痛いほどの緊張感が押し寄せてくる。  隊長の前に立ち「遅くなりました」と、敬礼する。 「座れ」と、言われ、レンの前のソファに腰かけ、次の言葉を待つ。隊長が話し出すまで言葉を発することは許されない。  沈黙が数秒続いた後、レンが言葉を切った。 「世羅の会社の爆破はプロによるものだ。ヤクザ、特に松尾組、橘組の組員を調べたがこの手の爆弾を作れるようなものはいない。つまりヤクザの闘争ではなく全く別から狙われた可能性が濃厚だ」 「つまり、ブラトーバ?」  黒龍が無意識のうちに口に出したが、本心ではそんな気はしなかった。 「その可能性もあるが、世羅、志野、田中、的場は警視庁公安部の諜報部員だ。そっちの方面で消された可能性もある」  激しい耳鳴りがして、心臓がバクバクと大きく激しく打ち付け始める。黒龍は4人ともが諜報部員だった事実に、衝撃を受け寒気がした。

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