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もう一度、バッテリーを

乾いた打球音が東京ドームに響き渡る。 白球はぐんぐん伸び、そのままバックスクリーンへ吸い込まれた。 『入ったあぁぁぁあ!』 実況が声を上げる。 『藍沢陽彩、第十八号ホームラン! これで今期打率は三割四分一厘! 今年もタイトル争いの中心です!』 スタンドからは割れんばかりの歓声が降り注ぐ。陽彩は軽く右手を上げながら、一塁へ向かって走り出した。 相変わらず、歓声には慣れない。けれど、嫌いでもなかった。 「やっぱ藍沢だな」 「今日も持っていったぞ」 そんな声が耳に届く。 ダイヤモンドを一周し、ホームベースを踏むとベンチの仲間たちが笑顔で迎えた。 「ナイスホームラン!」 軽くハイタッチを交わしながら、陽彩は笑う。 高校を卒業して五年。 日本プロ野球に入団してから、気付けばリーグを代表する捕手と呼ばれるようになっていた。 それでも試合が終わるたび、ふと凜のことが頭に浮かぶ。 海の向こうで夢を追う、かつての相棒。 テレビで名前を見ることあっても、もう何年も顔を合わせていなかった。 着替えを終え、クラブハウスの廊下を歩いていると壁掛けのテレビから聞き慣れた名前が耳に飛び込んできた。 『続いて、メジャーリーグです』 思わず足が止まる。 画面には、白いユニフォーム姿の凜が映し出されていた。 『ロサンゼルス・ノヴァス所属、朝倉凜選手。本日の登板でも七回無失点、十二打三振。今期十二勝目を挙げました』 映像の中の凜は高校時代と何ひとつ変わらない無表情で、淡々とマウンドを降りていく。 その姿に陽彩は思わず笑みをこぼした。 「少しは喜べって」 そう呟くと、テレビの中ではインタビュアーがマイクを向けていた。 『現在、日本でも朝倉投手の活躍が大きな話題となっています。今後対戦してみたい選手はいますか?』 インタビュアーの問いに、凜は少しだけ考える素振りを見せた。そして淡々と答える。 『対戦したい相手はいません』 『おや、それは意外ですね』 『はい』 一拍置いて、凜は続けた。 『藍沢陽彩と、もう一度バッテリーを組めたら。それで十分です』 スタジオが一瞬静まり返る。 『えっ……と、高校時代に最強バッテリーと呼ばれた、あの藍沢選手ですか!?』 『はい』 『対戦ではなく、もう一度バッテリーを?』 『それ以外は、特に』 それだけ言うと、凜は何事もなかったようにインタビューを終えた。 クラブハウスのテレビの前。陽彩はペットボトルを持ったまま固まっていた。 「……は?」 数秒遅れて、ようやく口が開く。 「え、いや……は?」 聞き間違えかと思い、テレビを見返す。けれど、テロップにはしっかりと凜の言葉が表示されていた。 「……凜?」 世界中の打者を相手に投げている男が、そんな答えを返すなんて。 陽彩は照れくさそうに頭を掻いた。 「俺もだよ」 誰に聞かせるでもなく、静かな呟きはクラブハウスの廊下へ小さく響いた。

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