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ある意味、両思い
久しぶりのオフ。目覚ましをかけていないにも関わらず、陽彩はいつもの時間に目を覚ました。
ベッドの上で大きく伸びをすると、枕元のスマートフォンへ手を伸ばした。
画面には、チームメイトのグループチャット。
<11時! 駅前集合な!>
<藍沢、寝坊すんなよ!>
そのメッセージを見て、陽彩は小さく笑う。
<もう起きてまーす>
送信した瞬間。
<今日、雨?>
<いや、ゲリラ豪雨だわ!>
立て続けに返ってきたメッセージに、思わず吹き出した。
「ひどくない?」
誰も聞いていない部屋で、一人ツッコミを入れる。そのままスマートフォンをポケットへしまうと、軽く身支度を整え始めた。
今日は練習も試合もない。
ただ、気の合う仲間と食事をするだけ。
そんな何気ない休日もプロになってからは、ずいぶん貴重になっていた。
約束の時間より少し早く着くと、駅前にはすでに何人かの姿があった。
「へーい!」
声を掛けられ、陽彩は軽く手を上げる。
「今日は早いじゃん」
「俺の事なんだと思ってんの?」
笑いが起こる。陽彩もつられて肩を揺らした。
「とりあえず行くぞ」
先頭のチームメイトの後ろをついて歩き出す。
休日の街は思っていた以上に人が多く、駅前は買い物客や観光客で賑わっていた。
他愛のない話をしながら十分ほど歩くと、目的地の店が見えてくる。
「ここ、ここ〜」
木目調の落ち着いた外観に、大きなガラス張りの入口。陽彩は店を見上げると、小さく笑みを浮かべた。
自動ドアが開き、賑やかな昼時の空気が流れる。
「いらっしゃいませ」
スタッフに案内され、一行は奥のテーブル席へ向かった。
「うわ、腹減ったー」
椅子へ腰を下ろした陽彩は、メニューを開くなり目を輝かせる。
「全部うまそー」
「お前、絶対最初に『全部下さい』って言うタイプだろ」
「さすがに言わないよ」
一拍置いて、陽彩は真顔で続けた。
「心の中では思ったけど」
その一言に、テーブルを囲む全員が吹き出す。
「藍沢、食い意地だけは一流だな」
「野球も一流だからセーフ!」
胸を張って言い張る陽彩に、また笑いが起こった。
試合中とは違う、肩の力が抜けた瞬間。
こんな他愛のないやり取りも、陽彩にとっては大切な息抜きだった。
食事も終盤に差し掛かり、それぞれが食後のコーヒーやドリンクに手を伸ばす。
その時、一人のチームメイトが思い出したように口を開いた。
「そういえば」
「ん?」
「昨日の朝倉のインタビュー見た?」
その名前に、陽彩の手がぴたりと止まる。
「あーみたみた」
「俺も見た。藍沢にプロポーズしてたな」
「そうそう! 公開プロポーズ」
陽彩は一瞬きょとんとしたあと、肩を揺らして笑った。
「確かに凜は俺じゃないと扱えないからね」
「お? 両思いですか!」
「ある意味、両思いだね」
さらりと言ってのけると、一同が一瞬静まり返る。
「お前、よくそんな恥ずかしいこと真顔で言えるな」
「え? 恥ずかしい?」
陽彩は首を傾げる。
「だって、凜も俺の球じゃないと嫌でしょ? 俺も凜の球が一番受けやすいし」
「はい出ました、野球バカ」
「会話が全部野球なんだよなぁ」
「だから彼女できねぇんだよ!」
その一言に、テーブルはどっと笑いに包まれた。
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