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運命のオファー
楽しい時間はあっという間に過ぎた。
店を出ると、柔らかな風が頬を撫でた。
「じゃあ、また明日!」
チームメイトと別れ、陽彩は軽く手を振った。
◇
翌日。いつもと変わらない朝を迎え、陽彩はクラブハウスの扉を開けた。
「おはようございまーす」
元気な声が室内に響く。
「藍沢、朝からうるせぇ」
「お前らが暗すぎるんだよ!」
笑いながらロッカーへ向かい、荷物を置く。
着替えを済ませると、そのままグラウンドへ向かった。
ウォーミングアップ、キャッチボール、ノック。いつも通りのメニューを終え、全体練習が一区切りついた頃だった。
「藍沢」
背後から名前を呼ばれ、陽彩は振り返る。
そこには球団マネージャーが立っていた。
「はい?」
「練習が終わったら、監督室まで来てくれ」
突然の呼び出しに、陽彩は首を傾げる。
「え、俺なんかやらかしました?」
「いや」
マネージャーは小さく笑う。
「監督からの呼び出しだ」
「……余計に気になるんですけど」
周りで聞いていたチームメイトが吹き出した。
「藍沢、とうとう怒られるか?」
「やばい、身に覚えありすぎて分かんないわ」
笑いが起こる中、陽彩は苦笑いを浮かべながら再びグラウンドへ視線を戻した。
その後も練習はいつも通りに進み、気付けば終了の合図が鳴る。
「お疲れ様でした!」
チームメイトへ軽く手を上げると、汗を拭きながらクラブハウスへ戻った。
シャワー浴び、着替えを済ませる。
濡れた髪でをタオルで拭きながら廊下を歩き、監督室の前で足を止めた。
「失礼しまーす」
ノックを二回。
「入れ」
聞き慣れた監督の声が返ってくる。
ドアを開けると、監督の他に球団のゼネラルマネージャーと、見覚えのないスーツ姿の男性が二人ソファに腰掛けていた。
「あれ」
陽彩は目を数回、瞬かせる。
「思ったより大事だった?」
部屋の空気を見渡しながら、小さく首を傾げた。
「……何かやらかしました?」
その言葉に、監督が思わず吹き出す。
「安心しろ。怒るために呼んだわけじゃない」
「焦ったー」
陽彩は胸を撫で下ろし、ソファへ腰を下ろした。
監督は机の上に置かれていた一枚の資料へ手を伸ばす。
「藍沢」
「はい」
「お前に、メジャーリーグからの問い合わせが来ている」
陽彩は一度瞬きをした。
「……え?」
「正式なオファーではない。現時点では、獲得に向けた調査段階だ」
隣に座るゼネラルマネージャーが資料を陽彩の前へ差し出す。
「複数球団がお前をリストアップしている。その中でも、一番熱心なのが一球団だ」
陽彩はゆっくりと資料へ目を落とした。
そこに記されていた球団名を見た瞬間、動きが止まる。
――ロサンゼルス・ノヴァス。
思わず息を呑む。その球団名を知らないはずがなかった。
凜が、今もマウンドに立ち続けている球団だった。
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