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旅立ちの日
メジャー挑戦の知らせは、瞬く間に球界を駆け巡った。
日本を代表する捕手、藍沢陽彩。
その決断はスポーツニュースだけでなく、連日さまざな番組で取り上げられていた。
『藍沢選手、メジャー挑戦を正式発表です』
フラッシュが何度も光る。
壇上に立った陽彩は、少し照れくさそうに頭を搔いた。
「小さい頃からの夢だったので、挑戦できることが凄く嬉しいです」
記者たちが一斉に手を挙げる。
「不安はありますか?」
「もちろんあります。でも不安より楽しみの方が大きいですかね」
陽彩は笑った。
「朝倉投手と同じ球団になりますね」
その質問に、会場が少しざわつく。
陽彩は一瞬だけ目を丸くすると、すぐに笑みを浮かべた。
「そうですね」
少しだけ天井を見上げる。
「再びバッテリーを組むことについては?」
陽彩は迷うことなく頷いた。
「組めたら最高ですね」
その一言に、会場中のシャッター音が一斉に鳴り響いた。
◇◇◇
「本当に行っちゃうんだな」
練習後のクラブハウス。
ロッカーを整理していると、チームメイトが寂しそうに笑う。
「たまには帰ってくるから」
「帰ってきても、お前にはサインもらわないからな!」
「そこは貰えよ!!!」
笑い声が広がる。監督も静かに歩み寄った。
「向こうでも、お前らしくな」
「任せてください!」
「困ったら一人で抱え込むな。ここにはお前の帰る場所がある」
その言葉に、陽彩は深く頭を下げた。
◇◇◇
出発当日。大きなスーツケースを引きながら、陽彩は空港の出発ロビーへ足を踏み入れる。
見送りに来たチームメイトやスタッフへ向かって大きく手を振った。
「暴れてこい!」
「ホームラン量産してこいよ!」
「もちろん!」
満面の笑みで答える。
搭乗口へ向かいながら、一度だけ振り返った。
ここで積み重ねた時間は忘れない。
そして、これから始まる新しい舞台には一人の男が待っている。
陽彩は思わず小さく笑った。
「向こうに着いたら、さっそく飯でも奢ってもらおーっと」
搭乗開始のアナウンスが流れる。
陽彩は搭乗券を握り直すと、一度だけ日本の景色を振り返った。
「……行ってきます」
静かに呟き、搭乗口をくぐる。
機内へ足を踏み入れると、客室乗務員が笑顔で迎えた。
「Welcome aboard.」
陽彩は軽く会釈を返し、自分の座席へ腰を下ろす。シートベルトを締めると、窓の外へ目を向けた。
やがて機体はゆっくりと滑走路へ進み始める。
小さくなる景色を眺めながら、陽彩は胸の奥で高鳴る鼓動を感じていた。
夢だった舞台まで後少し。
凜との再会まで、あと少しだった。
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