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最強バッテリー、再び
グラウンドへ足を踏み入れる。
歓声はない。あるのはベンチからの多くの視線だけだった。
キャッチャーマスクを片手に、ゆっくりとマウンドへ歩く。
凜はそんな陽彩を見つめたまま、小さく息を吐いた。
「……お前か」
「ええ? 俺とバッテリー組みたかったんでしょ?」
陽彩は小さく口元を緩める。
「俺が凜の最高の球、引き出してあげるよ」
凜は一瞬だけ目を細める。返事はない。けれど、その沈黙が陽彩には答えだった。
陽彩はホームベースへ向かい、ゆっくりとマスクを被る。
しゃがみ込むと、凜をまっすぐ見上げた。
数年ぶりに見る、その景色。高校時代、何度も勝利を積み重ねてきた景色が、海を越えて再び目の前にあった。
「凜」
陽彩はミットを軽く叩く。
「来い」
その一言だけで十分だった。
凜は小さく頷く。サインはない。それでも、互いが何を求めているのか分かっていた。
凜がゆっくりと振りかぶる。
次の瞬間、白球は捻りを上げて陽彩のミットへ吸い込まれた。
――バアァァン!
乾いた捕球音が球場に響き渡る。
陽彩の口元がゆっくりと緩む。
「ほら」
ミットを外しながら、嬉しそうに笑う。
「やっぱり、凜の球はこうじゃないと」
その一球に、ベンチの空気が変わった。
「……Did you see that?(……今の見たか?)」
「His fastball had more life.(ストレートの伸びがさっきまでと違う)」
「Unbelievable……(信じられない……)」
選手たちは思わず顔を見合わせる。
球速は大きく変わっていない。それでも、ボールの勢いも、キレも、まるで別人のようだった。
陽彩は何事もなかったかのようにボールを握り直す。
そしてもう一度、凜をまっすぐ見上げる。
「次、いこっか」
あとはいつも通り。
◇◇◇
「ゲームセット!」
審判の声が球場に響く。
グラウンドにいた選手たちは大きく息を吐き、それぞれベンチへ上がっていく。
試合が終わったにもかかわらず、選手たちの視線は自然と陽彩と凜へ集まっていた。
「Rin’s pitches were completely different after the catcher changed.(キャッチャーが代わってから、朝倉の球が別人だった)」
「Who is this guy……?(あいつ一体、何者なんだ……?)」
英語が飛び交う中、陽彩はきょとんと首を傾げる。
「ねぇ、凜。みんななんて言ってんの」
凜は汗を拭きながら淡々と答えた。
「褒めてる」
「やっぱ俺って天才?」
凜は一瞬だけ陽彩を見る。
「調子に乗るな」
「否定しないってことは、そういうことでしょ」
陽彩は得意げに笑う。
そんな二人のやり取りを見ていた選手たちから、小さな笑い声が漏れた。
その日の紅白戦は、陽彩がマスクを被って以降。一人の走者もホームを踏むことなく幕を閉じた。わずか数イニング。
それだけで、ノヴァスの選手たちは二人の実力を証明するには十分すぎる時間だった。
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