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怒られる……?
球場へ着くなり、陽彩は勢いよくクラブハウスへ飛び込んだ。
「すみませんっ!!! 寝坊です!!!」
慌てて頭を下げる。
ロッカールームは一瞬静まり返り、次の瞬間あちこちから笑い声が上がった。
「He’s here!(来たぞ!)」
「Finally!(やっと来たな!)」
チームメイトたちは笑顔で手を振っている。
その様子に、陽彩はきょとんと首を傾げた。
「……おっと」
怒られると思っていた。監督に呼び出されるくらいは覚悟していた。なのに、誰一人怒っている様子がない。
「凜!」
ちょうど着替えていた凜のもとへ駆け寄る。
「俺、怒られないの?」
凜はグローブをバッグから出しながら、淡々と答えた。
「連絡した」
「え?」
「二日酔いで遅れるって」
陽彩は目を丸くする。
「まじ? がち? え、凜大好き! 結婚しよう!」
思わず抱きつこうとした、その瞬間。
ぐいっと凛の手のひらが陽彩の額を押さえ、その場でぴたりと止まる。
「近い」
「頼むからキスくらいさせて」
腕をのばしても届かず、陽彩はじたばたともがく。
「やだ」
「なんで」
「誰にでもしてるから」
その言葉に、陽彩は思わず首を傾げた。
「ん? 誰にでもしてなかったらいいってこと?」
一瞬。
凜の動きが止まる。
「違う」
「今、間があったけど!」
陽彩は嬉しそうにニヤニヤ笑う。
凜は小さくため息をつき、陽彩の頭をグローブで軽く叩いた。
「さっさと準備しろ」
「はい出た! 凜の得意の逃げ技!」
そのやり取りに、ロッカールームは朝から笑いに包まれた。
笑い声が落ち着くと、選手たちはそれぞれグラウンドへ向かう。
朝の澄んだ空気の中、ウォーミングアップが始まった。
ランニング。キャッチボール。ノック。
メジャーの練習はテンポが速く、それでいてひとつひとつの動きに無駄がない。
陽彩もチームメイトに混じり、汗を流していく。
「Yo,Aizawa!!」
「Hey!!」
名前を呼ばれれば笑顔で応え、軽口を叩きながらボールを投げ返す。
そんな陽彩を、凜は少し離れた場所から静かに見つめていた。
「Asakura!! Aizawa!!」
コーチに呼ばれ、二人は同時に顔を上げる。
「ブルペンか!!」
陽彩はパッと笑顔になり、グローブを持ち直した。
「ほら、仕事だよ」
凜は何も言わず、そのままブルペンへ歩き出す。
陽彩もその背中を追いかける。
陽彩はブルペンへしゃがみ込むと、ミットを構える。
「凜」
目が合う。言葉はいらない。
「来い」
ミットを一度だけ、軽く叩いた。
その瞬間、凜の口元がほんのわずかに緩んだ。
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