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【1部】第2話 悪食
あれから、本当に毎日、執拗なまでに犯されては満身創痍のまま働く羽目になっていた。身体中に噛み跡や鬱血の跡がついて、それはどんどん増えていく。容赦なく腰を打ちつけられ、無理な体勢で犯されたり、手足を縛って気絶するまで追い詰められることもあった。だからいつも腰が痛かった。
今日は一体何をされるのか。考えたところで、意味もない。何をされても自分は受容するだけだから。
バイトが終わり、店を出た瞬間。
「コウくん、おつかれ」
理一が車両用のガードパイプに寄りかかってニコニコと待ち伏せていた。思わず足を止めると、理一が近づいてきて、肩を抱いてくる。
「飯食った?」
「……食べてない」
「じゃあ食べ行こうよ、奢ってあげる」
どういうつもりなのか、全然分からなかった。
「何食べるの?」
「何が良い?」
理一の思惑を測りきれずにいるが、しかしタダで飯が食える可能性があるならとりあえず言うだけ言ったほうが良い。
「回らない寿司」
伝えると、理一が乾いた笑いをこぼした。
「がめついね……まぁいいや、この近くにある寿司屋は〜」
スマートフォンで近くにある寿司屋を探す理一の横顔を見つめていると、そのまま肩を抱かれて強制的に歩かされる。理一は液晶画面上にあるマップにだけ釘付けで、こちらの視線に応えることはなかった。
意外と近くに店はあって、すんなりと席に着く。
「カラオケ屋ってどんなことするの?」
カウンターの内側から温かい粉茶が出される。そこに映る自分の顔は虚無的で、ゆらゆらと揺れていた。コウは品書きに視線をすり替え、淡々と答えた。
「フロント業務とか、フード提供、清掃……あとドリンクサーバーの補充」
「あー! 僕もね、一瞬だけファミレスでバイトしてたからドリンクサーバーの補充は身に覚えがあるなぁ」
理一も品書きを見ると、食べたいものを次々とオーダーする。
「でも今って業者さんが来てやってくれるんじゃないの?」
「どうだろう……うちの店は個人営業で機械が古いから補充類は自分たちでやってるけど。業者が入るのはメンテの時だけかな」
「ふーん……確かに、君の働いてるカラオケ屋って、九十年代後期から時間が止まってる感じの店だよね」
──なんでこの人は、こんな普通の会話ができるんだろう。
乱暴な性行為に及んでいるときは、声音に悍ましいほどの憎悪を滲ませながら沢山の罵声を浴びせて、苦しめる手を緩めることがない。行為の最中は、俺のことを本当に殺したいほど憎んでいるのが嫌なほどに伝わってくる。けれど、今横にいる理一は、普通の青年にしか見えなかった。まるで自分たちに因縁など無いように振る舞う異常性に、ますますこの男のことが分からなくなる。
違和感を抱きつつも、コウも食べたいものを容赦なくオーダーした。こんな豪勢なものを食べるのは久しぶりで、まさかこの男から恩恵を受けるとは思いもしなかった。
味わって食べていると視線を感じる。
「コウくんはお寿司が一番好きなの?」
「一番ってわけじゃないけど、好きだよ。でも自分の金じゃ食べない」
「ふーん……じゃあ、何が一番好き?」
問われると、箸が止まる。ぼんやりとして、喪失感が這い上がってくる。
自分は今、何が一番好きだったっけ。
「子供の頃は、母さんの作るグラタンが好きだった」
「……へぇ」
理一をチラリと見ると、微笑んでいた。コウは目線を寿司に戻し、一貫を口に放り込む。
そうして、食事をしながら他愛もない会話を続けると、理一はよく笑った。コロコロと表情の変わる人だと思った。自分が笑うことは終始なかったけれど。
満足するまで食べ終えると、理一が約束通り会計を済ませてくれた。
「ごちそうさまでした」
「いいえ」
今はニコニコと笑っているが、多分これはそのうち崩れる。
「うち来るの」
「そりゃあね。毎日するって言ったじゃん」
また肩に腕を回されて、歩かされる。こうやって密着すると、毎度体格差を自覚させられる。多分、わざとだと思う。自分がこの男に勝ち目がないことをまざまざと思い知らせるための行為。
十五分も歩けば、自宅アパートが見えてきた。一緒に鉄階段を踏み、部屋に向かう時間は緊迫感があって、胃の中がもたれるようだった。
理一は当然のように部屋に入り、勝手にテレビのリモコンに触るとソファに座って眺めていた。その間に準備を済ませるためにコウは風呂場に向かった。言いつけを守るよう、従順に。
風呂から出ると、「僕もお風呂借りよっかな」と理一が横をすり抜けていって、思わず振り返る。珍しかった。
今日の理一は、やっぱりいつもと違う。一体、何があったのか。コウはベッドに腰掛けて、考え事をしながらひたすらにテレビを眺めていた。内容は全く入ってこない。次第と音が遠くなって眠気が襲ってくる。まどろみに呑まれると、コウは横になった。
──何か、良いことがあったのかな。
このまま眠ってしまえば、行為をせずに済むのだろうか。罵声を浴びせられることも、追い詰められることもなく、許されたりするのかな。
そんな淡い期待は呆気なく裏切られ、頬が冷たく濡れる。どこからか水滴がしたたり、コウは目を開けた。頭上に理一がいて、雑に拭いた髪から水滴がこぼれたようだった。
「今日、誕生日なんだ」
突然言われた言葉を咀嚼すると、いろんな疑問が生まれる。そして機嫌の良さの正体を知る。
──誰の?
疑問を口に出来たのか出来てなかったのか、夢現だと自覚を持てない。
「お前の父親が撥ねた、僕の可愛い弟のな」
疑問に答えを与えられると、じわじわと意識が覚醒する。
「コウくん、僕の弟と歳一緒なんだよね」
理一の目は過去を懐かしんで綺麗に揺れている。そこにはやはり、切っても切り離せない憎悪があった。
「有理が生きてれば、二十三歳か」
首を両手で包まれ、目を見開く。
「どうして人って、一回しか殺せないんだろう」
力を込められ、本能的にその手を引き剥がそうと体が勝手に動く。自力で剥がすことはできなかったが、望むと片方の手が離れる。それが慈悲でないことをすぐに思い知らされる。片手で首を絞めながら、もう片方の手でスウェットパンツと下着をずり下ろされ、行為が始まろうとしていた。
コウは苦しさに喘ぎながら、さらなる苦痛を与えられる。慣らしたとはいえ、強引に理一の大きくなったものをねじ込まれると苦しかった。圧迫されながら粘膜が擦れる下品な音を聞かされる。全部収まると、再び大きな両手が首を包む。そうして力を込めながら律動が開始されて、視界が明滅する。
「何回も何回も、こうやってコウくんを犯すことで……繰り返し復讐を遂げられる……明日も、明後日も、ずーっと……そうやって錯覚しないとやってけないんだよね」
激しく穿たれ、くぐもった嬌声をあげながら喜ばせるように腹の奥で理一のものを咥え込む。ぐりぐりと良いところを抉られると、苦しさと快楽の境界線が曖昧になり、自分という存在ごと溶けていくような錯覚を味わう。それは、執拗なまでに繰り返されて、意識が遠のいていく。
苦しいのに気持ち良い。コウが「はっ……」と甘い声を漏らすと、ようやく理一が満足したのか、首を絞めていた手から徐々に力が抜ける。空気を吸い込むことを許され、コウは大きく咳き込んだ。それも束の間。
「謝れよ」
今度は手首を強く掴まれ、ベッドに縫い付けられる。
「なぁ」
がつんと突き上げられ、胸を反らす。
「僕の弟を奪ったお前の父親の代わりに」
冷たい視線がゴミでも見るように降り注ぐ。
「謝れ」
コウは必死に息を吐き、喉を上下させる。
──心の底からの謝罪はできそうになかった。けど、形だけで良いなら。
「ご、めんなさ……っ」
口にしようとすればそれを邪魔するように大きくひと突きされ、言葉が途切れる。要求したくせに理不尽にも謝罪を突っぱねる理一の目。それでも、今度こそしっかりと「ごめんなさい」と口にした。
「謝れよ、もっと」
何度も激しく突き上げられ、中をぐちゃぐちゃにされながらも、何度も必死に「ごめんなさい」と口にする。謝っても謝っても、奥を突き破るように叩かれ、赦されることはない。
理一はコウへの加虐行為に嵌って抜け出せなくなり、謝罪の言葉を聞くたびに満たされてはすぐにすり減り、また満たすために要求してくる。あまりの激しさに耐えかねて、啜り泣くように「ごめんなさい」と口にすれば、理一は嬉しそうに、歪みを湛えて笑う。
悔しい気持ちはもちろんない。ただ、あまりの過激さに体が悲鳴をあげているだけで、心は何も感じていなかった。この人が満足するならいくらでも謝るし、理性を手放して快楽に翻弄されてもいい。
どうしてだろうか。あろうことか、自分はこの人に愛おしささえ感じている。
肉体を見るに耐えないほどに凌辱され、全部がドロドロに溶けていく。でも、仕方なかった。
どうせ最後には、無意味に消える。
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