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【2部】第2話 邂逅と傷痕
明日の予報は雨だと言っていたから、明日の分の買い出しも済ませようと思い、二日分の食材を買い物カゴに入れた結果、エコバッグはパンパンになっていた。
こんなにも重いものを持ったのが久しぶりで、筋力の衰えを実感する羽目になった。コウは両手でエコバッグを持ちながら、よちよち歩いていると、進路を阻むように大きな影が現れる。
ふと見上げると、口端に大きな傷痕のある男性が立っていて、ニコニコと笑っていた。髪を上げて、身につけた高級そうなスーツ越しでもガタイの良さが窺え、年齢はパッと見ただけではよく分からない。四十代から五十代くらいだろうか。既視感を抱きながら、じっと見ていると。
「どんな美女を囲ってるのかと思ったら……本当に男の子なんだ。でも、可愛いね」
唐突に話しかけられ、コウは目を丸くした。
──どんな美女を囲ってるのかと思ったら。
この言葉だけで、理一の知り合いであることが分かった。
「はあ……」
重たいエコバッグを持ち直すと、男がまるで観察でもするようにコウの頭のてっぺんからつま先までを舐め回すように見る。
「……実は女の子だったりする?」
「しません」
母親に似ているとはよく言われるが、女性に間違われたことは流石になかった。
「うーん、そうかぁ……なんでこうなっちまったんだろうな……確かに、昔から女と寝ても付き合うとかなかったしな……でもまさか、こんな少年が趣味とは」
理一のことを言っているのだろう。なんとなく、この男性から穂高と似た雰囲気を感じ取る。理一と関係がある時点で間違いなくカタギじゃない。
預かり知らぬところで少年趣味だと思われている理一の名誉のためにコウは口を開いた。
「……俺、二十三ですけど」
「えっ、嘘! 見えな〜い! 俺もよく若く見られるけど、君には負けるなぁ」
男が馴れ馴れしく肩を抱いて顔を覗き込んでくると、荷物を持つ腕にさらに負荷がかかる。
「あ、ごめんね一人でべらべらと……おじさん、こういう者なんだけど」
懐から名刺ケースを取り出し、中身の一枚を手渡してくる。書かれている名前は──筿原治。コウはエコバッグを片手で持ち、開いた手でそれを受け取った。よく見ると筿原組三代目組長と書かれている。やっぱりヤクザ。そして、理一の所属する組の名前を初めて知った。
「うちのバカ息子がご迷惑をおかけしております」
「……息子? 理一さんの家族、もういないと思うけど」
「あぁ、いや……厳密には血の繋がりはないんだけど……アイツは俺の息子なんだよ」
ヤクザの世界では部下はみんな息子なのだろうか。ヤクザものの映画でも見ていればもしかしたら少しは理解を示すことができたかもしれないが、理一さんの横でそんなものを見たら冷笑される気がする。この人と理一さんの関係がよく分からない。
あれこれ考えていると再び肩を抱かれ、すぐそばで留まっている車に誘導される。
「親としての責任があるから、君にちょっとお話がしたくて……時間あるかな?」
コウはエコバッグの中身を見る。断りたい気持ちが強かった。
しかし、断るわけにはいかないんだろう。
頷くと、ニコニコと柔らかな笑顔を向けられ、車に押し込まれた。それはすぐに発進する。遠ざかるスーパーを窓から見送り、自身の横に置いたエコバッグに目を向ける。
──ああ。生魚を買ったのに。もしかしたら、調理できないかもしれない。
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