15 / 24
【2部】第7話 籠の中
「じゃあ、ちょっと出掛けるから大人しくしててね。すぐに帰るよ」
理一が機嫌良く額に口付けてくる。その機嫌の良さの正体は、健全なものではなかった。コウの両手足を縛りつけ、下腹部の奥深くまで玩具を押し込み、ガムテープで口を塞いで完膚なきまでの支配を成し遂げた結果だった。
シャツ一枚のみを身につけた状態で地べたに転がされ、内臓を犯す大きな異物の存在に意識を集中させられる。部屋にある掛け時計の音と、自身の中で蠢く無機質な音、そして外では鳥が呑気に囀っていて、この異様な状態を冷静に客観視させられる。
コウは無表情と潤んだ瞳を理一に向けた。理一は微笑むと踵を返して玄関に向かい、いなくなった。鍵の閉まる音を聞くと、完全な孤独に身を投じられる。
快楽を刺激する箇所にずっと玩具が当たっていて、しかし達するには少しもの足りない。もどかしい状態で放置され、コウは縛られた足を振るわせ、自ら浅ましくも腰を揺らす。
昨日の夜から食事を与えられずに、散々に犯されて、殴られた。浅い快楽に紛れながらズキズキと身体中を駆け巡る痛みを実感すると、今まで理一に殴る蹴るの暴力を振るわれたことがなく、容赦されていたことに気付かされた。
結局、理一の宝物を傷付けるという暴挙に出ても、理一にとって花澄有理という少年が世界で一番大切な存在であることを突きつけられただけだった。自分が得られたものなんて、この痛みだけ。他人の大切なものを傷付けたことで自分自身も擦り減って、手元に残ったものは何もない。いいや──自分は、元から何も持っていなかった。何かを手に入れたと錯覚をしていただけ。理一が自分のものになったことなんて、一度もない。
だけど、今回の件でなんとなく──理一はいつか、自分のことを本当に殺してくれるような気がした。世界で一番大切なものがあるのなら、それだけで生きていける。
自分は、理一の復讐心を満たす機能しかない人形だ。彼が手放す決心をした時、この命は終わる。それと同時に、自分という人間は理一の中から簡単に忘れられてしまうような気もした。
自分にとっては、理一が世界のすべてなのに。こんなにも愛しているのに。理一にとって西垣洸という存在は、刹那的なものでしかない。儀式が終われば、跡形もなく消える。
──この日々には、なんの意味もなかった。
じわじわと心の亡骸に侵食するひんやりとしたもの。どろどろしていて、放っておくと固まっていく。次第と思考は濁って、何も考えられなくなった。
ぼんやりしていると、コツコツと表の廊下を歩く音が聞こえてくる。理一が帰ってきたのかもしれない。
また、殴られて、犯される。
鍵を開ける音の後に、靴を脱ぐ気配を察知する。コウはリビングの採光扉が開かれるのを待ち構えていた。
現れたのは、理一じゃない──。
「んー? なんだこりゃ」
──筿原治だった。
筿原は目の前の惨状にドン引きしながらも笑って、非常識にも煙草を咥えて火をつけた。
「アイツはどういう趣味をしてるんだよ」
コウの尻は潤滑剤でぐちゃぐちゃで、与えられる無機質な快楽で中心は屹立して先走りをこぼしていた。理一以外の人間にまさかこんな姿を見られることになるとは思ってもみなかった。羞恥心はないけれど、なんとなく申し訳ない気持ちはあった。
筿原は煙を吐き出しながら、しばらくコウの無様な姿を見下ろし、満足するとようやくコウの自由を奪っていた縄を解いてくれる。即座にガムテープを剥がすと、頬に鋭い痛みが走る。
「大丈夫?」
「……はい」
自身の中を蠢いていたディルドを抜き去り、少し乱れた呼吸を繰り返す。筿原はその様を面白そうに見てから問いかけてくる。
「なんで返事くれないのよ」
筿原の言葉がなんのことを言っているのか分からず、一瞬頭の中が真っ白になったが、すぐに理解した。
「すみません。貸してもらったスマホ、理一さんに見つかりました」
「あちゃー……まぁ、そう上手くは行かんよなぁ」
コウは上体を起こした。縄を解くためにしゃがみ込んで顔の距離が近くなった筿原に無表情で視線を返す。どうしてここにきたのか問う前に。
「とりあえず、一緒に来てよ」
筿原治という強大な影に連れ去られる。
──殺されるのかな。
細い腕を大きな手によって強引に掴まれ、下に何も履いていない状態で靴すら履かせてもらえずにマンションの外まで引きずられる。そうしてまた、黒塗りの車に押し込まれた。
ともだちにシェアしよう!

