18 / 24
【3部】第2話 ピザ
「俺も数日したらそっち行くから」
「はいはい」
「じゃあ、仕事頼んだよ」
「はーい」
「洸くんも気をつけてね」
軽いやり取りが理一と夏木の間で行われ、それが終わるとコウは理一に連れられて空港に向かった。その間も理一は真剣な面持ちでネットニュースの確認を怠らなかった。夏木の部屋に潜伏している間も常にテレビをつけて、報道をチェックしていたが、いまだに筿原組長──筿原治の死は公になっていない。不可解に思うのはコウも同じだが、公になっていないのなら、なんにせよ好都合だろう。
結局、どこの国に向かうのかも分からないまま、ただひたすらに理一についていく。偽造されたパスポートを使い、皮肉にも生まれて初めて飛行機というものに乗った。
そうこうして十二時間は搭乗していたと思う。空港について、やっと目的地がどこの国かを知る。空港内を歩いていると、外国人男性が待ち受けていて、理一は人当たりのいい笑顔を浮かべながら外国語で対応していた。シャワーを浴びていた時に『英語圏ではない』と言っていた通り、土地的に聞こえているのはおそらくスペイン語だろう。もちろん、コウはスペイン語など挨拶の言葉以外知らない。耳を澄ませても、二人がなんの会話をしているのかコウにはさっぱり分からなかった。
所在なさげにしていると、二人がこちらを見て何か話し合っている。本来であれば、自分はここにいるべき存在ではないため、言及するのは当然だった。コウは疎外感に目を逸らして、キャリーバッグの手持ちをギュッと握った。
空港を出て、男の車に乗せてもらう。数時間走行を続けると質素なアパートに辿り着いた。外観も中身も至極普通で、強いて言うなら以前住んでいたマンションよりは狭くて古めかしいくらい。家具も一式揃っており、なんの不便もなかった。
男はここで帰るのかと思ったが、そのまま部屋にあるダイニングテーブルにつき、理一と一対一で何かの打ち合わせを始めた。理一にタブレットと鍵を渡すと、そこから小一時間は話し込んでいたように思う。
コウはその間、窓の外を眺めていた。向かいは大きな道路になっていて、人通りも多い。どれだけ見渡しても普通の街並みで、スーパーマーケットもあれば、本屋もある。日本と全く一緒とまではいかないが、しかし共通点はいくつもあった。ただ、理一はコウをこの部屋に監禁することを決めている。だから、この街を練り歩くことは決してないのだろう。
どれだけ眺めても変わらない景色に飽きが来て、コウはソファに腰掛ける。テレビを視聴することで暇を潰そうと思ったが、もちろん日本の番組などあるわけもなく、絵面だけを楽しむ他なかった。
長いミーティングが終わり、男がアパートを去った後、途端に理一は大きなため息をついた。コウの隣にドカリと座って「めんどくさい」とぼやいた。
「どうしたの」
「夏木に任された仕事がめんどくさいの」
「どんな仕事」
問いかけると、理一がこちらを一瞥して天井を見上げる。
「指定された場所に荷物運ぶだけなんだけど……数日かかる仕事もあるんだってさ」
「じゃあ、理一さんと会えない日が増えるの」
理一に身を寄せて、無表情のまま縋り付くような目線を送る。
「……なに、寂しいの」
「うん」
素直に肯定すると、理一が鼻で笑った。
「基本的に仕事は週に一回だけだよ。ここではのんびりしたいからね」
ソファの背もたれに肘を置いて、テレビを見つめる横顔はやはり窶れている。
「飯、どうするの」
「……今日はデリバリーでいいでしょ。なんか食べたいのある?」
「思いつかない」
「えー……じゃあ、ピザで良い?」
「うん」
頷くと、理一がスマートフォンでデリバリーアプリを開く。見せられた画面はやっぱり日本語が見当たらなかった。よく見ると、理一のスマートフォンの機種が変わってることにも気がつく。
早く、この環境に慣れないと。
ともだちにシェアしよう!

