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【3部】第3話 兆し
理一の言った通り、仕事は基本的に週に一度、時折遠方まで荷物を運ぶために数日間帰って来ないことがある程度で、それ以外で理一が遠くに出かけることはなかった。
海外生活初日は平和だったが、それはたまたまだったらしい。ここは普通に生活しているだけで銃声が聞こえる街だ。窓の外を覗くと誰かが倒れていて、人集りができていることがある。悲鳴が聞こえたかと思えば、ひったくりが起きていたり、強盗が起きている。昨日は放火があった。治安が著しく悪い土地であるため、本当にアパートから一歩も出してもらえず、日本に住んでいた時よりも理一の束縛が激しくなった。
日本の食事とはまるで違う味に慣れることもできず、結局コウは日本にいた時と同じように自炊を始めた。食材は理一がお使いを頼まれてくれる形で調達していて、日本にいた時では考えられない変化ばかりで気疲れが起きているような気がする。
もう一つ、理一自身に大きな変化があった。それは、以前は吸っていなかった煙草を取り憑かれるように吸い始めたこと。
パッケージこそ違うが、それは筿原が吸っていた煙草と同じものだった。
一緒に眠る時や、口付けられるたびに煙草の匂いを感じる。不快ではないけれど、なんだか違う人といるような錯覚があった。
その匂いを微かに感じて、コウは今理一の首にしがみつき、厚い胸板に押し潰されながら、詰まりそうな息を必死に吐いて散々に揺さぶられていた。
今までと変わらないのは、この孕ませることを目的とするかのような激しくて執拗な性行為くらいだろうか。
いや。もしかしたら、以前よりもしつこさが増しているような気もする。
理一の凶悪なものが奥をこじ開けて、視界がチカチカするほどの刺激を何度も与えられる。
長らく犯されて虚になった瞳。紅潮した頬と生理的な涙。耐えられないほどの快楽ではしたなく舞う声。きゅうきゅうと理一を締め付ける肉襞。それらすべてで理一の欲求を満たしても、まだ終わらない。
コウの薄い胸にぴったりとくっついていた厚い胸が少し浮くと、次に両腕をベッドに縫い付けられる。
蕩けた顔を視姦するようにしてから、理一はコウの首筋を舐めて強く吸い付く。次に甘噛みをして腰を奥へ奥へと進めて、焦らすように優しく奥を突いてくる。
しばらく繰り返されると、また体の底からムズムズと快楽が這い上がってくる。中も外もビクビクと震え始めた。このまま優しく追い詰められるのかと思いきや、達する寸前で突然引き抜かれ、バックから思い切り挿入された。腰を掴まれ、内臓を押し上げるように力強くピストンされながら「嫌っ、……」と本能で啜り泣くように口にするも、理一がそれで止まるわけがなかった。むしろ加虐心を煽られて、自制ができなくなっている。
理一が絶頂に近づくにつれて抽送が一層乱暴になり、コウの体が悲鳴を上げる。小さく開けた口から唾液がこぼれ、「あっ……あ、あ」と平坦な喘ぎ声を繰り返し吐き出す。激しい痙攣を起こしながら理一を締めつけ、自分の中へと射精を促す。お互いが限界に到達した時、奥にびゅくびゅくと理一の精が注がれ、じわじわと熱が浸食して夢現の中を彷徨う。
理一は呼吸を落ち着かせると、コウの中から萎えた自身を抜き去った。
一定の間隔で痙攣する体に蝕まれながら胸を上下して呼吸を整える。どうせすぐに第二ラウンドが始まって、再び激しく貪られる。
コウは目を閉じていたが、ふとベッドの軋む音と離れゆく体温に瞼を開けた。
理一がテレビのリモコンを取ると、電源を入れる。
「久々に映画見よう。これ好きな映画なんだ」
理一がベッドに腰掛けると、「おいで」と自身の膝と膝の間にコウを座らせ、映画鑑賞が始まった。行為の途中にこんなことをするのは初めてだった。
散々に体を弄ばれたせいで意識は朦朧としていて、画面を見たところでうまく情報処理ができない。くったりしながら理一の背中に全体重を預けていると、下腹部に理一の手が這う。いまだに痙攣している中を確かめるように少しだけ力を入れて撫でてくる。
コウはビクリと体を揺らして、理一の手を掴んだ。だが、理一はそれすらも楽しんでいる。
まるで叩けば音が鳴る玩具だ。
──有理くんには、こんなこと絶対しないんだろうな。きっと、もっと大切に触れる。こんな辱めるようなことはしない。ただ、清く正しい感情を向けて、頭を撫でる。
想像して、また心が黒ずんでいく。前まではどんな触られ方をしても、嬉しかったのに。
──気がついてしまってから、逃げ出したい気持ちばかりだ。
「や、だ……」
訴えかけると、理一が耳元で小さく笑う。尻に理一の硬くなったものが当たって、嫌な予感がする。
はぁ、とゆっくり息を吐いて身構えていると、案の定腰を持ち上げられてゆっくりと沈められる。背面座位での挿入。内側と外側から刺激を与えられて敏感になっている身体は拒絶反応を示していた。奥に当たっただけでコウは声をあげて、癖になったように絶頂していた。
「ははっ、うるせぇ……テレビの音聞こえないじゃん」
理一がおかしそうに、小馬鹿にするように笑うと顎を掴んでテレビの正面を向かせる。
「ちゃんと見ろ」
体を揺さぶられるわけでもなく、ただ中に入っていることを知らしめるだけ。しかし、数分前まで激しく犯された中は相変わらずヒクヒクと痙攣を起こして、侵蝕するような快楽をもたらしてくる。
腹に回る理一の逞しい腕にきゅっと力が込められ、また体が跳ねる。微かに理一から感じる情念。
「理一さん……っ、なんか……イライラしてる……?」
それに触れると、理一の腕の力が少しだけ緩む。間を置いてから理一が口を開いた。
「前から思ってたけど……君はよく人を見てるね」
「……理一さんだから……理一さん以外は、知らない……」
理一が縋り付くように抱きすくめてくる。
「明日から五日間、家を空ける」
ぼそりと気だるげにつぶやかれた言葉に喪失感が芽生える。
「あーあ……行きたくねぇ……」
「じゃあ、断って……」
「断れるわけないじゃん。僕今下っぱだよ? 顎で使われまくり……今までは好き勝手できてたのになぁ。自由ってのは、失ってから気づくんだねぇ」
今まで理一と離れた時間など、長くて二日程度だった。五日間もの時間を、自分は一人で生きていけるのか不安になってくる。
慣れ始めた煙草の匂い。理一の体温。冷たい目。なにもかもが、五日間自分の前から消えて無くなる。
──嫌だ。
コウは理一を引き止める言葉を口にしようとしたが。
「それに、これからもコウくんのこと養っていかなきゃいけないからさ。我慢しなきゃ」
耳に頬擦りをされ、愛おしげに触れられる。
ああ。
都合のいい玩具でしかない自分の言葉で、花澄理一を引き止められるわけがない。
この人は、自分の思うように生きる人だ。
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