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【3部】第6話 縄
夏木の住むアパートを出て、自分たちの住まいに移動する間、理一と手を繋ぐ。
コウの行いのせいで一層窶れた理一は何も話すことなく、気だるげだった。コウはその様を観察するように歩いていた。
アパートの玄関に着き、扉付近を注意深く見てみると確かにセンサーが置いてあった。
理一がコウを置いてそそくさとリビングに行こうとするので、コウは理一の背後に忍び寄り、そのままぎゅっと抱きついた。
「……暑いよ」
うんざりそう言いながら、構わずにリビングへと進んでいく理一。彼がパチンと軽快な音を立てて部屋の照明スイッチを押すと、悲惨な部屋の状態が明るみになる。
理一が一瞬驚いた素振りを見せるが、すぐに平然とダイニングテーブルの手前にボストンバッグを置き、腹に絡まりついているコウの両手を剥ぎ取り、体を離した。
「飯は食ったの?」
「……お腹空いてない」
「あっそ」
理一は改めて部屋を見渡した。
「にしても……部屋汚ねぇ……なにこれ」
コウは何も言わず、正面から再び理一に抱きつくと、やれやれと頭を撫でられる。
「理一さんがいないと、全部意味がないから」
「それじゃあ僕が帰ってきた時に困るでしょ」
「ごめんなさい」
理一はシンクに溜まった皿の数に目をやり、ため息をついた。
「本当に、なんも手つかなかったんだ」
「うん。もうどこにも行かないで」
「無茶言うなよ」
呆れの滲む声音。理一の顔を見上げると、怒りらしき感情はどこにも見当たらなかった。じっと見つめていると。
「風呂入るから退いて」
また引き剥がされそうになり、コウは抱きつく腕に力を込めた。
「一緒に入る」
言うと、理一が「ガキ」とつっけんどんに放つ。そして「もういいや」とコウを連れて風呂場に向かった。
離れていた時間が長すぎたせいで、一時も離れたくない気持ちが強く心にへばりついている。理一に迷惑をかけていると分かっていてもやめられなかった。
あれだけ部屋を悲惨な状態にしたというのに、理一には穏やかさがあった。だが、風呂から出てベッドの上に移動してから変貌を遂げる。
「で、今日のは何?」
三本もの指を挿入され、乱暴にかき混ぜられる。頭上には冷たい理一の表情があった。コウは自身を辱める理一の腕に手を這わせ、ほんの少しの抵抗を見せる。だが、理一が容赦することはない。
「僕のこと困らせて楽しい?」
問いかけに何も答えず、苦しげな息を吐き、生理的な涙を浮かべて理一の瞳をじっと見つめる。
「夏木にも迷惑かけてさ……危うくアイツのこと殺すところだったんだけど」
何も答えないコウにとうとう苛立ちを露わにする。
「口利けないの? 他人に迷惑かけてまで僕の気を引こうとする理由を訊いてんだよ」
理一の質問は、コウの心が何も伝わっていないことを証明しているようなものだった。それは当然のこと。理一からしたら、コウは底知れない存在に他ならない。
「そんなに一番になりたい? 僕の一番になってどうするの?」
コウは潤んだ瞳で、ただ沈黙を貫いて理一を愛おしそうに見つめるだけ。その態度に理一は苛立ちを募らせていく。
「物欲しそうな目で見たって、僕は君の望みなんて叶えないよ」
理一がため息を漏らし、指を引き抜いた。
「今、何考えてる?」
コウは顔を左右した。
「言わない……」
「他で試したくなった?」
再び顔を左右する。
「よりにもよって夏木か。アイツ、犯罪者のくせして優しいからなぁ……惹かれるのもしかたないね」
理一は一際長いため息をついて項垂れた。
「これだから、君を誰かと接触させるのは嫌だったんだよ……」
ベッドがギシリと軋む。
「この部屋からもう二度と出ないって約束できる?」
頬を指の甲で撫でられ、ただならぬ支配欲をぶつけられる。
「返事は」
だがコウは、煽るように口を噤む。すると、理一の苛立ちが沸点に達し、分からせるためにコウの腰を掴んだ。
「ぅ、…あ……んんっ、……」
一気に理一のものを捩じ込まれ、ぐちゅんと音がする。奥まで当たっている凶悪な男根に体がガタガタと震え、視界が白む。
「挿れた時の……その、苦しそうで気持ちよさそうな声……好き」
言葉の後にがつんと激しく穿たれ、コウは表情を歪ませた。そうして、乱暴な律動が開始され、ぐずぐずにされていく。
理一にとって、一方的に身体を押さえつけて逃げ場を完全に奪い、激しく種を植え付ける性行為は、手っ取り早く支配欲と独占欲を満たせるツールなのだろう。
奥を叩かれ、声にならない悲鳴をあげながら体をよじっても、快楽と苦痛を享受する以外許されないことを分からされる。大きな身体で小さな身体をめちゃくちゃに追い込むと、きっと自分の強さを実感できるはず。だから理一はいつも、歯止めが効かなくなっている。
前立腺を肉棒で圧迫されながら奥をこじ開けられ、結腸の入口で理一のカリ首をしゃぶらされる。太い男根を押し出そうとうねる中で、等間隔に理一を締め付ける。
結腸口から漏れる粘液と理一の先走りと潤滑剤が混ざり合って、自分の体の奥からくちゅくちゅと音が聞こえる。コウはその事実に体を壊されるような危機感を本能的に感じ取る。それでも心は恐怖を抱くことはなく、その感覚に飲まれながらただ揺さぶられて喘ぐ。この人になら壊されても別に良い。
コウはだらしない声を漏らしながら、ぶつけられる衝撃を受け入れていた。体に力が入らないのに、腿や体の中はびくんびくんと勝手に動いて、理一を求めて吸い付く。
「り、いちさん……っ」
理一にフラフラと両腕を伸ばすと、動きが止まる。
「りいちさん……」
コウが求め、理一が上体を近付ける。コウはすかさずに強く強く縋り付いた。
「なに」
至近距離に理一の瞳がある。そこに映る自分の醜さなど微塵も気に留めない。ただただ、理一に触れられる事実を噛み締める。
コウは衝動的に理一へと口付けて、必死に求愛をする。一方、理一は口を開かず、コウの行動を冷静に俯瞰しているようだった。
しつこく理一の唇を喰むと、腰を強く打ち付けられて「あっ」と声が舞い、口を放してしまう。
拒絶されると苦しい。
離れていく理一の心や体が許せなくて、欲望のままにしがみついている。それが、良くない形で自身から滲み出て、行動にまで移している。
──きっと、邪魔だろうな。こんな奴。
──気がつけばもうすでに、俺が俺じゃなくなってる。
「いらなく、なったなら……はやく、殺して……っ」
魘されたように懇願すると、また理一の動きが止まった。
「だから、殺さないって言ってんだろ」
理一の大きな手がコウの両手を一つにまとめて、もう片方の手で寝巻きを捲られる。口に指を突っ込まれて唾液を絡め取られ、胸に塗りつけられる。
「う、……んん」
胸の突起を撫でられ、理一をきゅっと締め付けると、理一が熱い息を吐いた。
「夏木にこんな姿見られたらドン引きされるよ。アイツ、女好きだし」
理一は、コウが夏木を気に入ってると思い込んでいる。それが気に食わなくて、コウを辱め、汚れきったこの身体は彼に相応しくないと突き付け、心を折ろうとしている。
「どうでも、いい……」
吐き捨てると、理一の目に冷ややかな何かが浮かぶ。そうして、また腰を掴まれて激しく犯される。
──夏木さんのことは別に好きでもないし、興味もない。けど、その勘違いで理一さんが想いを拗らせてくれるのなら、この誤解は解かなくてもいい。
コウは喘ぎ声で部屋を満たして、理一の独占欲を掻き立て続ける。
まるで、ちぎれそうな縄でなんとか繋ぎ止めているみたいだ。
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