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【3部】第17話 真実

 佐野が拠点としているビルに立ち入るのはこれで三度目だった。  握った銃が酷く手に馴染んで感じるのは、目的の達成が間近に迫っている全能感のせいだろうか。  口をガムテープで塞がれ、手足を縄で拘束された男が自身の足元でガタガタと震えていた。何度も、何度も何度も、飽きるほどに見てきた光景。  けど、これが最後だ。  理一はハンマーを起こし、男の額に照準を定める。今の自分はきっと、この男から見れば悪魔のように映っているだろう。  低い音が銃から発され、男の息の根を簡単に奪った。だらりと自身の横にぶら下がるだけになった腕には倦怠感がある。 「コングラッチュレーショ〜ン!」  パチパチと手を叩いて歩み寄ってくる影。今回は佐野が後ろで傍観していた。  理一は佐野と向き合った。 「これで全員。約束通り、あの子の足をもう二度と動かないようにしろ」  横暴に命令するが、佐野は目を細めて微笑むだけで返答をしない。 「聞いてんのかよ」 「お前は本当にバカだね」 「あ?」  佐野が理一をすり抜けてしゃがみ込むと、慣れた手つきでターゲットの死亡を確認して、すっと立ち上がる。再びこちらを向く微笑は底知れなくて、薄気味悪い。 「お前は、コイツらのこと知ってるはずだよ」  冷や汗が額を伝う。ずっと、既視感があった。けれど、金のためだと見て見ぬ振りをしてきた。何も、考えたくなかった。嫌な予感がこれでもかというほどに胸に警鐘を鳴らしてる。 「ここで発表しまーす」  ──聞きたくない。 「なんと、お前がぶっ殺したのは」  ──嫌だ。 「筿原妻子殺害事件の首謀グループでした」  佐野が再び拍手をする。  耳鳴り。  初めて出会った日の筿原治の顔が脳裏に浮かび上がった。復讐心に濡れた表情と、縋り付くような目。  あの日から、こうなることは決まっていた。 「特に因縁深いのは、お前が最初に殺した小岩──本名、柴田将一郎でーす。顔整形してるから分かんなかったよね」  違和感がパズルのピースのように綺麗に嵌っていく。  銃を握る手が震えていた。  筿原妻子殺害に関与したであろう面子の写真を、確かに自分は過去に見ている。  何も考えられなくて、何も言葉が出てこない。死してもなお、あの人は僕にもたれかかって、操り人形のように扱ってくる。思うままに動く、都合の良い人形。  心の底で、義理の父として自分を愛してくれていると信じていた。  けれど、それは理想でしかない。 「あ、一応言っておくと山吉は柴田の息子ね。事件には直接関係ないけど、筿原さんの要望で一緒に始末してもらいました」  ぼんやりとする意識の中、こちらのことなどお構いなしにベラベラと真実を喋り続ける佐野に、じわじわと殺意を抱く。 「まぁ、柴田の息子なのでだいぶ下衆野郎ですよ。殺して正解だね」  ぽん、と肩に手が置かれる。 「いやぁ、筿原さんもあの世で喜んでるだろうね?」  理一は震える息を吐き出して、問いかけた。 「お前……組を抜けたんじゃなかったのかよ」 「抜けてるよ? 今はただのビジネス関係っていうか」  佐野が人差し指を自身の頬に当てて、あざとく斜め上を見上げていた。その目が、ギョロリとこちらを捉える。 「跡継ぎの儀は完了、これでお前も正式に組長だね」  理一は佐野の胸ぐらを掴み、顎に銃口を当てた。佐野は臆することなく、真顔を浮かべている。 「俺のこと殺しても何も変わんないっしょ」  ハンマーを起こそうと指を置いた刹那。 「そんなことより……西垣洸くんが今大変なことになってるよ?」  瞠目して、銃を離す。  佐野が身なりを整えてから肩をすくめた。 「お前を連れ戻すならまずは洸くんから、っちゅーコトで拉致しましょうって流れになった」 「なんで……」 「だって、お前と直談判するより、あの子とっ捕まえて強制送還した方が早くない?」  ──落ち着け。コイツは、何度も僕を騙している。落ち着け、落ち着け。夏木がいるはずだから、きっと大丈夫だ。  理一はふと、スマートフォンを後ろポケットから取り出し、起動させる。  すると、佐野の言葉が真実だと告げるように、一件の通知が届いている。それは、コウがセンサーを越えて外の世界に飛び出した事実を知らしめるものだった。 「組はあの子のこと利用価値のある道具くらいにしか思ってないから、手足の一本や二本、持ってかれるかもな」  スマホの画面を愕然と見ていると、視界に佐野が割り込んでくる。 「やってることはお前と一緒だね。良かったじゃん、費用浮いて」  額に青筋が浮かび上がり、佐野をきつく睨みつけた。 「殺すぞ」  佐野は悍ましい殺意を前にしても相変わらずヘラヘラと笑っていた。 「やめときなって。俺を殺すのは得策じゃないよ。ていうか、こんなことしてる時点で時間の無駄じゃない?」  ハッとして、コウのサンダルに仕込んであるGPSの存在を思い出し、アプリケーションを起動する。  それは、現在進行形で動いていた。  理一は舌打ちをしてすぐさま走り出す。 「おっ。行くんだね? 新・筿原組長、頑張れ〜!」  腹立たしい声が背中にかけられる。  そんなことがどうでも良くなるくらい、頭の中がコウのことでいっぱいになっていた。  間に合わなかったら。  僕はいったい、どうなるんだろう。

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