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第3話 牧野昇は、ごめんと言いながら堕ちる
和也が、俺の前に膝をついている。
黒い影は、まだ俺の腕と足を椅子に縫い止めていた。
動けない。
指先を動かそうとしても、影が絡みつく。
足を引こうとしても、床から伸びた黒い筋が、それを許さない。
そのくせ、和也には何も絡んでいなかった。
月影館は、欲に従う者を自由にした。
そして、理性にしがみつく俺を縛った。
悪趣味だ。
そう思うのに、目が和也から離れない。
「戻りたくないです」
和也は、そう言った。
頬を赤くして、目を潤ませて、それでもまっすぐ俺を見ていた。
「俺、もう本当に戻れません」
「和也」
名前を呼んだだけで、和也の肩が小さく震えた。
その反応が、胸に刺さる。
可愛い。
思ってはいけないのに、そう思った。
こんな状況で。
こんな館に閉じ込められて。
後輩を前にして。
俺は、まだそんなことを思っている。
最低だ。
「待ってね」
声をなるべく柔らかくした。
「和也、待って」
「待てません」
和也は首を振った。
「ずっと待ってました」
息が止まる。
その言葉は、俺の理性を正面から叩いた。
ずっと。
和也は、ずっと。
俺の知らないところで。
「先輩に触れたいって、ずっと思ってました」
和也の指が、俺の膝に触れた。
たったそれだけで、体の奥が熱くなる。
駄目だ。
反応するな。
こんなのは館のせいだ。
閉じ込められた不安と、日記の言葉と、壁の文字が和也を煽っているだけだ。
そう言い聞かせる。
でも、和也の指は震えていた。
怖がっている震えではない。
欲しくて、触れたくて、どうしようもない震えだった。
「吉井」
言いかけて、止まる。
もう、その呼び方では届かない気がした。
和也は、俺を見上げる。
「名前で呼んでください」
喉が詰まった。
「今だけじゃなくて、ちゃんと俺を見てほしいです。後輩じゃなくて、吉井じゃなくて、和也として見てほしいです」
和也。
俺の中で、何度も呼んできた名前。
声に出してはいけないと思っていた名前。
出したら、線を越える気がしていた名前。
「和也」
口にした瞬間、和也の唇が震えた。
「あ……っ♡」
甘い声が漏れる。
たった名前を呼んだだけで。
それだけで和也が、そんな顔をする。
胸の奥が、熱で焼ける。
「もう一回、呼んでください」
「和也」
「あっ……♡」
和也は目を伏せた。
でも、逃げない。
俺の膝に触れた手を離さない。
「好きです」
小さな声だった。
でも、書斎にまっすぐ響いた。
「先輩が好きです。カッコよくて、優しくて、ずっと好きでした。でも、今は、それだけじゃ足りません」
駄目だ。
止めなければ。
先輩として。
年上として。
オカ研の活動中に後輩を守る立場として。
「そんな顔をしないで」
俺は息を吐くように言った。
「俺が、困る顔だよ」
「困ってください」
和也は、少しだけ笑った。
泣きそうなのに、どこか強い顔だった。
「俺、ずっと困ってました。先輩のせいで、ずっとドキドキして、勝手に熱くなって、どうしたらいいか分からなくなってました」
「和也」
「だから、今度は先輩も困ってください」
その言葉に、影に縛られた腕が動こうとした。
和也を止めたい。
抱きしめたい。
離したい。
引き寄せたい。
全部が同時に来て、体の中が滅茶苦茶になる。
和也は、俺の反応を見逃さなかった。
「先輩」
指先が、そっと近づく。
俺の体が、勝手に強張る。
「反応、してます」
「言わないで」
声が掠れた。
「先輩の体、ちゃんと俺に反応してくれてます」
和也の目が潤む。
でも、その顔は悲しそうではなかった。
嬉しそうだった。
「あ……っ♡」
和也が、小さく息を漏らす。
「俺だけが欲しがってるんじゃないって、分かるから」
その一言で、胸の奥が軋んだ。
違う。
違わない。
和也だけではない。
俺も、ずっと。
「嬉しいです」
やめてくれ。
その言葉は、だめだ。
俺の罪悪感に、甘く触れる。
和也を思ってしまったこと。
旧病院の夜から、何度も思い出してしまったこと。
あの背中。
震えた肩。
俺の手を握り返した指。
強がる声。
守りたいと思った。
それは本当だ。
でも、それだけではなかった。
旧病院の夜。
処置室の前で、和也は足を止めた。
普段は軽口を叩いて、怖くないですと笑う後輩が、金属音ひとつで動けなくなった。
俺は後ろから包むように立って、声をかけた。
「大丈夫だよ。俺がいるからね。怖いなら、このままでいいよ。ゆっくりでいいからね」
和也の体から、少しずつ力が抜けた。
俺の腕の中で、息を整えた。
その瞬間、胸が跳ねた。
守りたい。
可愛い。
そんな言葉が、同時に浮かんだ。
外へ出る時、俺は「足元が危ないから」と理由をつけて手を繋いだ。
本当は、離したくなかった。
和也の手が、俺の手をぎゅっと握り返したから。
その夜からだ。
和也を、ただの後輩として見られなくなったのは。
最低だと思った。
和也は俺を信じている。
怖い時に頼ってくれた。
俺は守る側のはずだった。
それなのに、俺は一人の夜、和也の顔を思い出した。
あの震える肩を。
俺の声で安心した表情を。
強がるくせに、褒めると少しだけ嬉しそうにする顔を。
何度も思い出して、内に秘めた熱を解放した。
止められなかった。
そのたびに、自己嫌悪した。
最低だ。
和也は後輩だ。
俺を信じている。
そう思っても、やめられなかった。
「先輩」
和也の声で、現在に戻る。
目の前に、和也がいる。
日記でも、記憶でもない。
本物の和也が、俺を見上げている。
「嬉しいです」
また、和也が言う。
「先輩が、俺で反応してくれるの」
罪悪感に、柔らかい手が触れた気がした。
俺がひとりで抱えていたものを、和也は嬉しいと言う。
俺で反応してくれるのが嬉しいと。
それは、救いではない。
そう思う。
都合よく受け取ってはいけない。
でも、胸の奥が、どうしようもなくほどけていく。
「和也」
声が掠れた。
「俺は」
言わなければ。
隠してきたことを。
「可愛いと、思ってた」
和也の目が見開かれる。
「旧病院の夜から」
言った。
言ってしまった。
「怖がっているのに、平気なふりをするところも。俺の手を握り返したところも。部室で軽口を言うところも。全部、可愛いと思ってた」
和也の頬が、一気に赤くなる。
「あ……」
「ごめん」
「謝らないでください」
和也は、すぐに言った。
「嬉しいので、謝らないでください」
その声が、まっすぐ胸に入ってくる。
「先輩が俺を見てくれてたの、嬉しいです」
駄目だ。
もう、本当に駄目だ。
俺の理性は、和也の嬉しいに弱すぎる。
和也は、俺の膝に手を置いたまま、少し身を乗り出した。
「もっと、ください」
「和也」
「先輩のこと、もっと欲しいです」
唇が、震える。
止める言葉が、もう出てこない。
「ごめん」
俺は、また謝った。
「ごめん、和也」
「だから、謝らないでください」
和也が、俺の方へ近づく。
「先輩が気持ちいいなら、俺、嬉しいです」
その言葉が、最後だった。
俺の中で、何かが折れた。
「和也、だめだ」
まだ言う。
まだ、言おうとする。
「もう、無理だよ」
本音だった。
和也の目が、甘く濡れる。
「はい……っ♡」
その返事が、あまりに幸せそうで。
俺は、もう止まれなかった。
和也が俺を求める。
触れるたびに、体が勝手に反応する。
視線が絡む。
和也が俺の反応を見て、嬉しそうに息を漏らす。
「先輩」
「和也」
「今、声が出ました」
「言わないで」
「嬉しいです」
「和也」
「俺で、気持ちよくなってくれるの、嬉しいです」
その言葉で、また理性が削れる。
和也は、俺を責めない。
気持ち悪がらない。
むしろ、俺が乱れるたびに、嬉しそうにする。
その顔が、俺をさらに駄目にする。
「もっと、ください」
和也の声が、甘く震える。
「先輩が我慢できなくなるところ、見たいです」
「和也」
「俺、ずっと見たかったんです」
俺は、椅子の背に頭を預けた。
影に縛られている腕が、動かない。
触れたい。
和也の髪に触れたい。
肩を抱きたい。
引き上げて、抱きしめたい。
動けない。
だから余計に、和也の触れ方も、息も、声も、全部が逃げ場なく伝わってくる。
「気持ちいい」
声が漏れた。
言った瞬間、和也の顔がぱっと熱を帯びる。
「あ……っ♡」
「聞かなかったことにして」
「無理です」
和也は首を振る。
「嬉しいです。先輩が言ってくれたの」
「和也、俺は」
「もっと言ってください」
「そんなこと」
「俺だけが聞きたいです」
胸が詰まる。
その顔は、ずるい。
欲しがっているのに、嬉しそうで、泣きそうで、幸せそうで。
俺は、和也に許されているような気がしてしまう。
「気持ちいい」
もう一度、言った。
和也の肩が震える。
「あっ……♡」
「和也」
「はい……っ♡」
「可愛い」
言ってしまった。
でも、もう止められない。
和也が、俺の言葉で崩れる。
それが、あまりに愛おしい。
「先輩……っ♡」
和也の声が、甘く震える。
俺の中で、熱が限界まで高まる。
「ごめん」
また、口から出た。
「俺、もう」
言葉が切れる。
和也が、俺を見上げる。
「いいです」
その声は、小さいのに、強かった。
「俺、先輩が気持ちよかったなら、嬉しいです」
その瞬間、俺は大きく息を乱した。
和也の名前を呼ぶ。
視界が揺れる。
黒い影に縛られたまま、俺は和也の前で崩れた。
しばらく、何も考えられなかった。
熱い。
和也が近い。
息が近い。
髪が乱れている。
頬が赤い。
肩が震えている。
可愛い。
声が出ない。
「先輩」
和也が、俺の膝に手を置いたまま、俺を見ている。
「ありがとうございます」
「それは」
「先輩が、気持ちよかったなら、俺、嬉しいです」
やめてくれ。
そんな顔で、そんなことを言わないでくれ。
俺は、まだ縛られている。
でも、心の方はもう、とっくにほどけていた。
「和也」
「はい」
「君は、本当に」
言葉が続かない。
可愛い。
欲しい。
守りたい。
抱きしめたい。
全部が混ざって、うまく言えない。
和也は、少しだけ恥ずかしそうに笑った。
「まだ、欲しいです」
息が止まる。
「先輩のこと、もっと欲しいです」
「和也」
「ずっと準備してました」
その言葉の意味を理解した瞬間、体の奥がまた熱くなる。
和也の頬は赤い。
でも、目は逸らさない。
「先輩に、ちゃんと受け止めてもらえるように」
「和也、待って」
「待てません」
和也は、ゆっくり立ち上がった。
その動きが、危うい。
でも、迷いはなかった。
「俺、先輩を思って、何度も一人でしてました」
声が震えている。
でも、逃げない。
「先輩に触られることも、見られることも、もっと深く受け止めることも、ずっと想像してました」
胸が、痛いほど鳴る。
「俺、もう前から、先輩のものでした」
その言葉で、視界が熱くなる。
和也が、俺の膝に乗るように近づいた。
椅子が軋む。
「和也、危ないよ」
口から出たのは、そんな言葉だった。
「椅子が古いから」
和也が、一瞬だけ目を丸くする。
それから、泣きそうに笑った。
「先輩、今それ言います?」
自分でも思った。
今、それを言うのか。
でも、それが俺だった。
どれだけ欲しくても、和也が危ないのは嫌だった。
和也は、俺の肩に手を置いた。
「そういうところも、好きです」
言葉が刺さる。
甘く。
深く。
もう、逃げ場がない。
「いいですよね?」
和也の声の最後が、甘く揺れた。
「あ……っ♡」
答えを待っているようで、待っていない。
和也は、自分の欲で動いていた。
俺は縛られたまま、ただ見ていた。
いや、見せつけられていた。
和也が、俺を受け止めようとしている。
俺のことを。
好きで。
欲しくて。
ずっと想像していたことを、今、自分の意思で現実にしようとしている。
「和也」
「はい……っ♡」
「無理しないで」
「無理じゃないです」
和也の指が、俺の肩を掴む。
「先輩だから、受け止めたいんです」
その言葉で、完全に終わった。
和也が、ゆっくり身を沈める。
俺の熱を、少しずつ受け止める。
近い。
深い。
重い。
和也の体が震えるたび、その震えが俺にも伝わる。
「あっ……♡」
声が、耳元で跳ねる。
「和也」
「大丈夫、です……っ♡」
「本当に」
「先輩だから……っ♡」
和也が、さらに深く受け止める。
息が詰まった。
俺の方が、声を失う。
和也の熱が近い。
その奥で、俺の反応が返ってくる。
和也が感じているのが、体で分かる。
「先輩……っ♡」
「和也」
「入って、きてます……っ♡」
言葉が、理性を削る。
「俺の中に、先輩が……っ♡」
「和也、そんなことを」
「言いたいです……っ♡」
和也の目が潤んでいる。
「先輩に、聞いてほしいです……っ♡」
胸が苦しい。
甘すぎる。
俺は何もできない。
縛られたまま、和也を支えることすらできない。
なのに、和也は俺を欲しがっている。
俺を受け止めて、俺で感じて、嬉しそうに震えている。
「奥まで、きてます……っ♡」
和也が、肩を震わせる。
俺は息を詰めた。
「先輩で、変になる……っ♡」
「和也」
「先輩も……気持ちいいんですね」
何も答えられない。
答えなくても、体が答えている。
和也は、それに気づいている。
「俺の中で、すごく……っ、熱い……っ♡」
その言葉で、また視界が揺れる。
椅子の影が、腕に食い込む。
動きたい。
和也を抱きたい。
腰を支えたい。
でも動けない。
和也が、自分で動く。
少しずつ。
深く重なったまま、熱が擦れる。
「あっ……♡」
和也の声が跳ねる。
「擦れて……っ♡」
「和也、無理しないで」
「無理じゃないです……っ♡」
和也が、俺の肩にしがみつく。
「気持ちいいです……っ♡」
その言葉で、俺の中の何かがまた壊れる。
和也が気持ちいい。
俺を受け止めて。
俺で。
それを、嬉しそうに言う。
「先輩が、俺で……っ、変になってるの、嬉しい……っ♡」
「和也」
「俺も、変です……っ♡」
和也の呼吸が乱れる。
深く重なるたびに、肩が震える。
擦れるたびに、声が甘く割れる。
俺は、その全部を見ていた。
目を逸らせなかった。
「先輩……っ♡」
「和也」
「だめ……擦れて、変になる……っ♡」
「止まって」
「いやです……っ♡」
即答だった。
「止まりたくないです……っ♡」
胸の奥が、熱でいっぱいになる。
和也が、自分で欲しがっている。
館のせいではない。
日記のせいでもない。
俺のせいですら、きっと全部ではない。
和也自身が、俺を欲しがっている。
「昇さん」
その呼び方で、息が止まった。
和也の声が、甘く崩れる。
「昇さんで、気持ちいい……っ♡」
もう、限界だった。
その名前の呼び方だけで、俺の理性は最後まで削られた。
「和也」
「はい……っ♡」
「ごめん」
「謝らないで……っ♡」
「俺、もう」
「はい……っ♡」
和也は、俺の肩にしがみついたまま頷く。
「俺も、です……っ♡」
そこからは、言葉が途切れた。
和也の声だけが、断片的に落ちてくる。
「あっ……♡」
「先輩……っ♡」
「奥……っ♡」
「だめ、そこ……っ♡」
「気持ちいい……っ♡」
一つひとつが、俺を壊す。
俺の体は、和也の中で反応している。
和也の体は、それに応えている。
和也が震える。
俺も震える。
息が合わない。
でも、欲だけは重なる。
「先輩……っ♡」
「和也」
「いく……っ、俺……っ♡」
俺は、何かを言おうとした。
止める言葉ではない。
謝る言葉でもない。
ただ、和也の名前を呼びたかった。
「和也」
呼ぶと、和也の体が大きく震えた。
「あっ……♡ 昇さん……っ♡」
その瞬間、和也が弓みたいにしなった。
俺の前で、俺を受け止めたまま、大きく崩れる。
頬が赤い。
目尻が濡れている。
唇が震えている。
可愛い。
どうしようもなく、可愛い。
その顔を見た瞬間、俺も引きずられた。
「和也」
声が掠れる。
「俺も、もう」
和也が、泣きそうに笑った。
「はい……っ♡」
その返事で、全部が弾けた。
熱が深くほどける。
視界が白く抜ける。
何度も、和也の名前を呼んだ気がする。
実際に声になっていたかは、分からない。
気づくと、和也は俺の胸に額を預けていた。
肩が小さく震えている。
息が近い。
髪が乱れている。
頬が赤い。
やっぱり、可愛い。
「先輩」
和也の声が、小さく響く。
「ありがとうございます」
また、それを言う。
俺は目を閉じそうになった。
「幸せです」
胸の奥が、痛いくらい甘くなる。
「好きです」
和也が、顔を上げる。
俺を見る。
本当に、まっすぐに。
「先輩が好きです」
俺は、返事をしようとした。
でも、声が出なかった。
影に縛られているせいではない。
胸がいっぱいで、言葉が追いつかなかった。
和也は、俺に近づいた。
唇が触れる。
柔らかい。
甘い。
短いキス。
離れる。
寂しい。
もっと。
そう思った瞬間、書斎の机の上で、日記がぱらりと音を立てた。
和也が、びくっと肩を揺らす。
「……日記」
俺たちは同時に机を見る。
開いたページに、赤い文字が浮かんでいた。
『片方だけでは、夜は終わらぬ』
和也が、息を呑んだ。
「……開きませんかね」
書斎の扉は、まだ閉ざされている。
窓も静かだ。
館は、終わっていない。
和也が、こちらを見る。
不安ではなかった。
期待だった。
怖さもある。
でも、それよりずっと、俺を待っている顔だった。
その時、腕に絡んでいた黒い影が、すっとほどけた。
足首の影も消える。
椅子に縫い止められていた感覚が消えた。
俺は、ゆっくり指を動かした。
動く。
立ち上がれる。
和也の目が、揺れる。
「先輩」
俺は立ち上がった。
和也は、俺の前でまだ少し震えている。
頬は赤い。
髪は乱れている。
目は潤んでいる。
そして、逃げない。
俺を見ている。
「和也」
声が、低くなった。
自分でも分かった。
さっきまでの俺とは違う。
縛られて、止めようとして、ごめんと言い続けていた俺ではない。
もう、言い訳は残っていなかった。
和也が俺を欲しがった。
俺も、和也を欲しがった。
そして、和也はそれを嬉しいと言った。
俺の中で、何かが静かに形を変える。
守りたい。
可愛い。
抱きしめたい。
欲しい。
全部が、一つの熱になる。
「解けたよ」
俺は、和也に近づいた。
一歩。
和也の肩が震える。
でも、下がらない。
二歩。
和也の唇が、少し開く。
三歩。
俺は、和也の腰を掴んだ。
和也の体が、びくっと震えた。
「あ……っ♡」
その声で、俺の中の理性が静かに沈む。
「今度は」
俺は、和也を見下ろした。
和也の目が、期待で揺れている。
泣きそうなくらい嬉しそうな顔だった。
「俺の番だ」
和也が、小さく息を呑む。
怖がっているのに、逃げない。
むしろ、俺の腕に体を預けてくる。
その顔を見た瞬間、俺の中の何かが、静かに獣の形を取った。
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