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第4話 先輩が、俺の想像よりずっとやばい
「今度は」
昇さんが、俺の腰を掴んだ。
「俺の番だ」
声が低かった。
いつもの、柔らかくて優しい先輩の声じゃない。
旧病院の夜に「大丈夫だよ」と言ってくれた声でもない。
俺のことを気遣って、無理しなくていいよ、と言ってくれる声でもない。
もっと低くて。
もっと熱くて。
俺を逃がす気がない声だった。
胸の奥が、ぞくっと震える。
怖い。
少しだけ。
でも、それよりずっと強く、嬉しかった。
俺が先輩をこうした。
優しくて、穏やかで、誰にでも柔らかく笑う牧野昇さんが、俺のせいでこんな声を出している。
そう思った瞬間、体の奥が熱くなった。
「先輩……」
呼ぶ声が震えた。
昇さんの指が、俺の腰に深く食い込む。
「さっきの勢いはどうした?」
「っ……」
「俺のこと、もっと欲しいって言ったよな」
顔が熱くなる。
言った。
言ったし、今も思っている。
でも、いざ昇さんにこうして見下ろされると、息がうまく吸えない。
「逃げるな」
低い声で言われて、体が震えた。
「あ……っ♡」
声が漏れる。
昇さんの目が、細くなる。
「いい反応だな」
「そんな言い方……っ」
「嫌か?」
嫌じゃない。
嫌なわけがない。
でも、それを口にしたら、もっとおかしくなりそうだった。
昇さんは俺の返事を待たなかった。
待つ必要がないと分かっているみたいに、俺の顎に指を添える。
「口、開けて」
命令だった。
優しいお願いじゃない。
それだけで、胸の奥が甘く痺れた。
「あ……っ♡」
俺は、言われた通りに口を開いた。
昇さんが笑う。
「いい子だ」
その一言で、体がさらに熱くなる。
キスされた。
深い。
さっきまで俺が求めていたキスとは違う。
奪われるキスだった。
唇を重ねられ、舌を絡め取られ、息を逃がす隙間まで塞がれる。
「んっ……♡」
昇さんの手が、俺の腰を引き寄せる。
体がぴったり重なる。
近い。
熱い。
昇さんの全部が、俺に向かっている。
俺だけに。
「ん、ふ……っ♡」
息が苦しい。
でも、離されたくない。
昇さんの首に腕を回すと、彼の手が俺の背中を撫でた。
優しい撫で方ではない。
俺の反応を確かめるような手つきだった。
肩。
背中。
腰。
俺が震える場所を、ゆっくり探ってくる。
「ここ、弱いな」
「っ、言わないで……っ♡」
「言わないでほしい顔じゃない」
昇さんが、耳元で笑う。
「もっと言われたい顔だ」
「ちが……っ♡」
「違わないな」
否定が、声にならない。
昇さんは、俺が言い返せないのを見て、さらに腰を引き寄せた。
奥で熱が疼く。
「先輩……っ♡」
「昇さん」
「え?」
「そう呼べ」
命令された。
息が止まる。
昇さん。
昨日まで、心の中で何度も呼んでいた名前。
今は、目の前の本人がそれを求めている。
「昇、さん……っ♡」
口にした瞬間、昇さんの目が熱く揺れた。
「もう一回」
「昇さん……っ♡」
「いい子だ」
また言われた。
俺の体は、その言葉に弱すぎる。
腰から力が抜けそうになる。
昇さんが支えてくれなかったら、立っていられなかった。
「和也」
「はい……っ♡」
「俺の本性は、こんなものじゃないぞ」
息が詰まった。
その言葉で、頭の奥が真っ白になる。
怖い。
なのに、胸が跳ねる。
もっと見たい。
もっと、昇さんの奥にあるものを知りたい。
みんなが知らない昇さんを、俺だけが見たい。
「見たいです……っ♡」
言ってしまった。
昇さんの表情が変わる。
優しさの奥に隠れていた熱が、はっきり形を持つ。
「じゃあ、最後まで受け止めろ」
「はい……っ♡」
返事をした瞬間、昇さんは俺を抱え直した。
長椅子の背に体が沈む。
古い革が、低く軋む。
薔薇窓から差し込む月明かりが、昇さんの肩越しに滲んで見えた。
館の中は静かだった。
壁文字も、日記も、肖像画も、今は何も言わない。
まるで、ここから先は二人でやれとでも言うみたいに。
昇さんが、俺の上から覗き込む。
「欲しそうな顔」
「見ないで……っ♡」
「見る」
即答だった。
「和也が俺で崩れるところ、全部見る」
胸が爆発しそうになる。
「そんなの……っ」
「見られたいんだろ」
「……はい……っ♡」
もう隠せない。
隠す必要もない。
俺は昇さんに見られたい。
優しい先輩ではなく、今の昇さんに。
逃がさない目で、俺だけを見てほしい。
昇さんが俺の膝を撫でる。
「力、抜け」
「っ……」
「受け止めるんだろ」
その言葉で、体の奥が震えた。
俺は昇さんの肩にしがみついた。
「受け止めます……っ♡」
「いい返事だ」
昇さんの熱が、少しずつ近づいてくる。
体が強張る。
でも、嫌じゃない。
怖いより、嬉しい。
待っていたものが来る。
ずっと想像していたものが、本当に俺の中へ入ってくる。
「昇さん……っ♡」
「大丈夫だ」
声は低い。
でも、支える手は優しかった。
「俺を見てろ」
俺は、昇さんを見た。
そのまま、ゆっくり受け止める。
熱が入ってくる。
少しずつ。
重く。
深く。
「あっ……♡」
息が震えた。
昇さんが、俺の腰を支える。
逃がさない手。
でも、落とさない手。
「和也」
「はい……っ♡」
「ちゃんと受け止めてるな」
「入って……っ、きてます……っ♡」
自分で言って、さらに熱くなった。
昇さんの目が、ぞくっとするほど甘く細まる。
「いい顔」
「言わないで……っ♡」
「言う」
さらに深く重なる。
「あっ♡」
奥に、熱が届いた。
視界が揺れる。
俺は昇さんの肩に爪を立てた。
「昇さん、深い……っ♡」
「まだだ」
「まだ……っ?」
「もっと受け止めろ」
低い声と一緒に、さらに深く押し込まれる。
「ああっ♡」
声が跳ねた。
体の奥が、熱でいっぱいになる。
逃げたい。
でも、逃げたくない。
もっと欲しい。
この矛盾で、頭がおかしくなりそうだった。
昇さんが俺の顔を覗き込む。
「泣きそうな顔」
「泣いてません……っ♡」
「泣いていいぞ」
「だめ……っ♡」
「だめじゃない」
昇さんの手が、俺の腰を固定する。
そして、ゆっくり動いた。
奥で熱が擦れる。
「あっ……♡」
思わず、声が漏れた。
「擦れてる?」
「擦れてます……っ♡」
「気持ちいい?」
「気持ちいいです……っ♡」
素直に言った瞬間、昇さんの目がさらに熱くなる。
「正直でいい」
「昇さんが、言わせて……っ♡」
「うん。言わせた」
またゆっくり動く。
深く重なったまま、熱が擦れる。
奥が甘く痺れる。
「あっ♡ 昇さん……っ♡」
「ここか」
昇さんが、角度を変えた。
奥の一点に、こつんと当たる。
「ああっ♡」
体が跳ねた。
反応が大きすぎて、自分でも驚く。
昇さんは、見逃さなかった。
「ここだな」
「ちが……っ♡」
「違わない」
また、同じところへ当てられる。
「あっ♡ だめ、そこ……っ♡」
「だめ?」
「無理……っ♡」
「無理でも感じてる」
昇さんの声が、低く甘い。
「俺で、こんなに変になってる」
胸の奥まで甘く痺れる。
「変にしたの、昇さんです……っ♡」
「そうだな」
昇さんが笑う。
「もっと変にしてやる」
ぞくっとした。
それから、下から深く突き上げられる。
「ああっ♡♡」
声が跳ねる。
奥に当たる。
擦れる。
熱が広がる。
一回ごとに、体の奥が甘くほどけていく。
「昇さん、奥っ……♡」
「分かってる」
「分かってるなら、少し……っ♡」
「少し?」
また突き上げられる。
「あっ♡」
「止めてほしい?」
「っ、ちが……っ♡」
「もっと欲しい?」
返事ができない。
顔に出た。
昇さんが、それを見て笑う。
「欲しそうな顔、可愛いぞ」
「あ……っ♡」
可愛い。
その言葉が、体に直接落ちてくる。
「もっと欲しがれ」
「もっと……っ♡」
「聞こえない」
「もっと、ください……っ♡」
言った瞬間、昇さんの腕に力がこもった。
「いい子だ」
深く突き上げられる。
「ああっ♡♡」
もう、声を抑えられない。
恥ずかしい。
でも、嬉しい。
昇さんが俺を見ている。
俺だけを見て、俺の反応を覚えて、俺の弱い場所を逃がさずに突いてくる。
みんなに優しい先輩が。
俺だけに、こんな顔をしている。
それが嬉しくて、気持ちよくて、頭がいっぱいになる。
「昇さん……っ♡」
「和也」
「俺、やばい……っ♡」
「何が」
「昇さんが、想像よりずっと……っ♡」
「ずっと?」
また奥に当てられる。
「あっ♡ やばい……っ♡」
「言え」
「ずっと、やばいです……っ♡」
昇さんが満足そうに笑った。
「いい褒め言葉だ」
「褒めてます……っ♡」
「知ってる」
昇さんの手が、俺の頬を撫でる。
優しい手。
でも、奥では容赦なく熱が擦れる。
その差で、さらにおかしくなる。
「あっ♡ 昇さん、だめ……っ♡」
「だめじゃない」
「無理……っ♡」
「まだいける」
「いけません……っ♡」
「いける」
断言された。
胸の奥が、甘く跳ねる。
昇さんに決められる。
俺がどこまで感じられるか。
どこまで崩れるか。
それが嫌じゃない。
むしろ、嬉しい。
「俺が見てる」
昇さんが囁く。
「和也は、まだいける」
「そんなの……っ♡」
「俺でいけ」
その命令で、体の奥が一気に熱くなった。
「っ、昇さん……っ♡」
「俺を見て」
見た。
昇さんの目が、俺だけを捕まえている。
逃げられない。
逃げたくない。
「俺でいけ、和也」
「あっ♡」
深く突き上げられる。
奥が弾ける。
「ああっ♡♡ 昇さん……っ♡」
視界が白く抜けた。
体が大きく震える。
声が止まらない。
「いく……っ♡ 昇さんで、いく……っ♡」
昇さんの腕が、俺を抱きしめる。
「いい子だ」
その声で、全部が崩れた。
甘い熱が、体の奥から一気に広がる。
俺は昇さんにしがみついたまま、何度も震えた。
「昇さん……っ♡ 好き……っ♡」
「和也」
昇さんの声も、余裕をなくしていた。
低く、掠れている。
「可愛い」
「好き……っ♡」
「俺も、もう」
深く重なったまま、昇さんも大きく震えた。
俺の中で、熱がほどける。
抱きしめる腕が強くなる。
「和也」
名前を呼ばれるたび、胸がいっぱいになる。
終わったはずなのに、体はまだ小さく震えていた。
息が整わない。
昇さんの肩に額を預ける。
「……昇さん」
「うん」
「最高でした」
言ってから、顔が熱くなる。
でも、撤回しなかった。
本当に、最高だった。
昇さんは、少しだけ息を乱したまま俺を見る。
「和也にそんなことを言われると、俺がまた調子に乗る」
「調子に乗ってください……っ」
言ってしまった。
まただ。
でも、もういい。
昇さんの目が、もう一度熱を帯びる。
「本当に?」
「っ……」
「そんな顔で言うな」
「どんな顔ですか」
「まだ欲しい顔」
胸が跳ねた。
否定できなかった。
俺は、まだ昇さんの腕の中にいる。
まだ昇さんの熱を覚えている。
まだ、足りないと思っている。
「和也」
昇さんの指が、俺の腰を撫でる。
「怖かった?」
俺は首を振った。
「怖かったんじゃなくて」
「うん」
「嬉しかったんです」
昇さんが黙る。
俺は、ちゃんと言いたかった。
「みんなに優しい先輩が、俺だけにあんな顔してくれるの、すごく嬉しいです」
胸が熱い。
でも、逃げない。
「俺の好みど真ん中でした」
昇さんの目が揺れた。
それから、困ったように笑う。
「和也」
「はい」
「それは、かなり危ない褒め方だよ」
「でも、本当です」
「ふふ。和也、本音が出てるよ」
「出てます」
「可愛い」
また言われた。
でも、今度は逃げなかった。
胸がいっぱいで、照れる余裕もあまりなかった。
「もう、ただの後輩には戻してやらない」
その言葉で、息が止まる。
低い声。
でも、さっきより少しだけ優しい。
所有されるみたいな言葉なのに、胸の奥が幸せでいっぱいになる。
「戻りたくないです」
俺は小さく言った。
昇さんの目が、甘くなる。
その時、机の上の日記が、ぱらりとめくれた。
俺たちは同時にそちらを見る。
開いたページに、赤い文字が浮かんでいる。
『よくできました』
「……褒められた」
俺は呟いた。
昇さんが、思わず笑う。
「館に?」
「すごく嫌です」
「でも、よくできたらしいよ」
「それは、まあ」
認めるのも悔しい。
でも、確かに扉の方から、風が入ってきていた。
書斎の扉。
廊下。
その向こうの玄関。
閉ざされていたはずの館が、静かに出口を開いている。
終わった。
そう思った。
でも、俺は動けなかった。
動きたくなかった。
昇さんも、すぐには離れなかった。
「出るか」
昇さんが言った。
声は、少しだけいつもの柔らかさを取り戻していた。
俺は頷こうとして、できなかった。
「和也?」
「……まだ」
言ってから、顔が熱くなる。
でも、言った。
「まだ、出たくないです」
昇さんの目が、また熱を帯びる。
「俺も、思ってた」
胸が跳ねた。
「扉、開いてますよ」
「開いてるね」
「もう、出られますよ」
「うん」
昇さんが俺の頬に触れる。
「でも、和也はまだ俺を見てる」
「……見てます」
「俺も、まだ和也を見ていたい」
その言葉で、もうだめだった。
俺は昇さんの肩にしがみついた。
「もう一度、いいか?」
確認というより、同じ欲を確かめる声だった。
俺は、小さく頷いた。
「俺も、思ってました」
昇さんの目が、甘く危うく細まる。
「正直でいい」
そして、俺の腰を支え直した。
「立てる?」
「立てます」
「じゃあ、こっち」
昇さんは俺を長椅子から抱き起こした。
足元が少しふらつく。
でも、それさえ嬉しい。
昇さんが俺を支え、長椅子の背へ向かわせる。
月明かりが、薔薇窓から俺たちに落ちている。
扉は開いている。
館はもう、俺たちを閉じ込めていない。
それなのに、俺たちはまだ出ない。
自分たちの意思で、ここにいる。
昇さんが、俺の耳元で囁いた。
「手、つけ」
その声で、体が震えた。
「あ……っ♡」
俺は言われた通り、長椅子の背に手をついた。
自分で従った。
自分で、もっと見られる姿勢になった。
恥ずかしい。
でも、それ以上に熱い。
「いい子だ」
背後から、昇さんの手が腰に触れる。
「お前の感じるところ、もっと見たい」
「はい……っ♡」
声が震える。
「俺も、見てもらいたいです」
言った瞬間、昇さんの息が少し乱れた。
「本当に、和也は俺を煽るのがうまいな」
「煽ってるつもりは……っ」
「あるだろ」
「……少しだけ」
「じゃあ、責任を取らないとな」
その言葉だけで、体の奥が甘く震える。
「あっ……♡」
また、昇さんの熱が近づく。
一度知ってしまった体は、もう反応を隠せなかった。
受け止める前から、背中が震える。
昇さんの手が腰を支え、俺が逃げないように固定する。
「力、抜け」
「はい……っ♡」
「ちゃんと受け止めろ」
「受け止めます……っ♡」
再び、深く重なる。
「ああっ♡」
一度目より、体が覚えている。
熱が入ってくる感覚。
奥まで満たされる重さ。
擦れるたびに崩れる場所。
全部、分かってしまう。
分かるから、余計に逃げられない。
「昇さん……っ♡」
「ここがいいんだろ」
すぐに、さっき見つけられた場所へ当てられる。
「あっ♡ だめ……っ♡」
「覚えたからな」
「覚えないで……っ♡」
「無理だ」
また突き上げられる。
「和也の感じるところは、全部覚える」
「ああっ♡♡」
体が跳ねる。
長椅子の背を掴む手に力が入る。
昇さんの手は、俺の腰を逃がさない。
「体、ぴったりだな」
その声が、耳元で落ちる。
胸が甘く爆発しそうになる。
「嬉しい……っ♡」
「うん?」
「昇さんと、ぴったりなの、嬉しいです……っ♡」
昇さんの動きが、一瞬だけ乱れた。
「そういうことを言うな」
「だって、本当……っ♡」
「可愛い」
「可愛いって言うと、また……っ♡」
「また?」
「変になります……っ♡」
「なれよ」
低い声。
「俺の前なら、いくらでも変になっていい」
「あっ♡」
奥に当たる。
擦れる。
突き上げられる。
何度も。
もう、声が勝手に出る。
「昇さん……っ♡」
「もっといくぞ」
「はい……っ♡」
「ついてこい」
「ついていきます……っ♡」
返事をした瞬間、深く突き上げられた。
「ああっ♡♡」
息が飛ぶ。
頭が真っ白になる。
昇さんの声だけが、耳に残る。
「和也」
「はい……っ♡」
「俺でいけ」
「いく……っ♡」
「一緒に」
その言葉で、胸まで熱くなった。
命令なのに、甘い。
逃がさないのに、一緒にいてくれる。
「はい……っ♡」
俺は、必死に昇さんを感じた。
奥に当たるたび、体が震える。
擦れるたび、甘い熱が広がる。
昇さんの呼吸も乱れている。
俺だけじゃない。
昇さんも、俺で余裕をなくしている。
それが分かって、嬉しくて、さらに限界が近づく。
「昇さん……っ♡」
「和也」
「好き……っ♡」
「俺もだ」
「好き、です……っ♡」
「もう一度」
「昇さん、好き……っ♡」
その瞬間、深く突き上げられた。
「ああっ♡♡」
全部が弾けた。
体の奥から、甘い熱が一気に広がる。
俺は長椅子の背にしがみついたまま、大きく震えた。
背後から昇さんに抱きしめられる。
昇さんも、俺の中で深く震えた。
熱がほどけて、息が重なる。
しばらく、何も言えなかった。
館は静かだった。
扉は開いている。
月明かりが、書斎の床に落ちている。
俺たちは、出られるのに出なかった。
出られない館から、もう出られるのに。
俺は、昇さんから離れたくなかった。
「和也」
昇さんの声が、耳元に落ちる。
少しだけ、いつもの優しさが戻っていた。
でも、その奥にはまだ、俺だけが知っている熱が残っている。
「大丈夫?」
俺は、息を整えながら頷いた。
「大丈夫です」
それから、顔を赤くしたまま言った。
「最高でした」
昇さんが、低く笑った。
「本当に、和也は俺を調子に乗せるね」
「乗ってください」
昇さんの表情が再び欲を帯びる。
俺の胸が跳ねる。
「なら、和也」
「はい」
「お前の感じるところ、もっと見せてもらう。一晩中だ、いいな?」
胸の奥が、歓喜でいっぱいになる。
「はい!」
俺は声を張り上げる。
「俺も、昇さんに全部見てもらいたいです!」
昇さんの手が、俺の腰に触れる。
「ふふ、そうか。なら、全部さらけ出せ」
低い声。
野獣のような目。
俺は、ぞくっとするのと同時に奥が熱くなる。
扉は開いている。
夜も、もう終わるはずだった。
けれど俺は、まだ月影館を出られなかった。
出たくなかった。
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