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第3話 背中
ジェスが巻いてくれた襟巻きは、少しオレンジがかった茶色をしていて、
ほとんど色味のない冬の防寒着の中でひときわ鮮やかに見えた。
肌触りの良い感触に、つい首元をつまんでしまいながら階段を降りると、
先に階段室を出たジェスの、分厚い背中にぶつかりそうになった。
「――わ、なんだよ」
「ハネス、教官に呼び止められてる」
「――あー……」
ハネスは、魔法騎士科の首席で、子爵家の嫡男だ。
次男三男の多い騎士養成院の中で、珍しい跡取り息子ということもあって、
寮監だとか生徒会の役員だとかの役を何かと押し付けられている。
「引き継ぎの話かな」
思わずひそめた声でジェスに言うと、ジェスは声を出さずに頷いた。
「来年の寮監候補者が、養成院辞めるみたいだ。選定やり直しだな」
「――えっ、辞める?」
騎士科首席のジェスは、読唇術もうまい。
正直そこらの技術はさっぱりなグエンからしてみると、
魔法を使わない騎士達のこうした技術の方が、実はよっぽど面白い。
こうして日常の中でその技術を見せられると、唸るしかできなかったりもする。
「……なんかあったのかな」
「そこまではわからないけど、ちょっと雲行きが怪しいかも」
ひそひそ声で話をしていると、こちらに気づいたハネスが、両手を合わせて頭を下げてきた。
そのハネスに気づいた教官がこちらをみて、外出の支度のできた二人に、眉を上げた。
「お前ら悪いな。こいつは寮の仕事でキャンセルだ。二人で行ってこい」
「教官、今日ハーウッドの誕生日祝いなんですよぉ」
指を二本立てた教官にハネスが言い募ると、教官はハネスに向き直って頷いてみせた。
それから、こちらを見て向かって朗らかに笑う。
「めでたいな、ハーウッド。成人おめでとう。お前の友人の分も祝わせてくれ」
それから、寮監室の申請帳を開くと、何やら書き付けた。
「――え、教官ずるい!」
ハネスが声を上げて教官の背中に齧り付くと、教官は帳簿を持ち上げてグエン達へと内容を見せた。
「成人の祝いだろ。俺の名前で外泊許可出してやるから、今日はこいつの分まで楽しんでこい」
示された申請帳には、成人した寮生で月に二日しか許可されていない外泊が、教官の名前で特別許可されていた。
ハネスが「ずるい!」と声を上げながら教官に引きずられていくのを見送りながら、グエンは呆けていた。
ジェスと二人きりで、
……外泊?
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