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第4話 わかるわけない
「グエン、行こうぜ。門限なしだってよ」
ジェスがそう言ってグエンをチラッと振り返った。
門限なし。
なるほど、と頷く。
どこかで宿泊せずとも、門限を気にせず出歩けるということだ。
「――おう、行こうぜ!」
グエンは気持ちが軽くなって、ジェスの肩に腕を回して歩き出した。
「酔っ払う前から人に寄っかかんなよ」
ジェスはそう言いながらも、笑ってグエンについてきてくれた。
いい誕生日になるかもしれない。
――そう、思えた。
「グエンー、寝るなって」
「ねてない……」
二人で繰り出した街で食事を楽しみ、そこで初めて葡萄酒を試したグエンは、見事に酔っ払った。
寝てはいない。
意識はある。
だけど、なんだか真っ直ぐ立てなくて、ジェスの肩に体重を預けて、
あったかいなあ、と思いながら寮の階段を登った。
「あー……、やっと着いた……。お前、軽くないんだからな。感謝しろよ」
耳元でボヤくのを聞きながら、うん、うん、と返事をする。
感謝してるし、あったかい。
いい気分のままそんなことを呑気に考えていて、自室の様子をすっかり忘れていた。
忘れたかった、のかもしれないけれど。
ジェスが扉を開けて、グエンの部屋の中へと足を踏み入れる。
暗い室内、机の上のランプに、――明かりが灯された。
「……グエン、――これ……」
「――んー?」
預けていた頭を持ち上げて、明かりの方を見る。
いつも通りの顔をしたジェスが指差す先。
管理課の通達が、書面を上に向けたまま、そこに置かれていた。
全身に、冷たい水を浴びせられた気持ちになって、
通達に手を伸ばし、手繰り寄せる。
「なんでもない」
「――ディッカー候補って」
「俺は違う」
ジェスの言葉を遮って、通達を握りしめる。
手の中で、通達がグシャリと音を立てた。
ジェスの目線がグエンの手元に落ちて、思わずその手を背後に隠す。
それでもジェスの視線から逃れられていない気がして、
預けていた体重を取り返そうとして体を起こしたけれど、ジェスの腕は離れなかった。
二人の間、中途半端に距離の空いたところを、冷えた室内の空気がなでる。
ジェスの、強い眼差しが、ひたと自分を捉えていた。
「……違うって、なんだよ」
なぜ、そんな風に真剣な目で問われるのかわからなくて、は……、と、ため息のような声がこぼれた。
「グエンお前、まさか断る気か?お前……、ディッカーになりたくてなれない奴らが、騎士団にどんだけいると思ってんだ」
ジェスに掴まれた肩に、ぐっと力が込められていた。
少し、引き寄せられて、逃げられないように目を合わせられる。
こんな時でなければ、こんなに近くでジェスの顔を見られるなんて、嬉しかったはずなのに。
「――お前……に、関係ないだろ……」
「ないわけあるか!俺だって、魔法騎士の素質があったら目指したかった!
からっきしだから諦めもついてるけど、それでも、」
ジェスが、にじり寄ってきて、思わず後ろに下がる。
背中に、壁があたった。
これ以上下がれないところまで来たのに気づいて、
ジェスの顔が、なんでか泣きそうに見えた。
そんな顔を、させたいわけじゃない。
「……目の前で、チャンスを棒に振る奴をみて、腹が立たないわけないだろ」
――ジェスが、ディッカーに憧れていただなんて、知らなかった。
目の前、ジェスの眉間の力強さを見て、身体中から力が抜けそうだった。
いや、違う。
そうじゃない。
そうじゃ、ない……。
「ジェス。――ディッカーには、なれない。俺は無理だ」
ジェスは、知らない。
怪訝な顔をしたジェスに、小さく首を振る。
「俺は、――できない」
素質のある者が、ディッカーになるためには、
その魔力を受ける器となる者と、番う必要がある。
震える喉をなだめて、なんとか言葉を絞り出す。
――番う。
――文字通り。
「ジェス、離せ」
知らない。
ジェスは知らないはずだ。
だけど、ジェスの顔を見ていられなくて、
その肩を押す。
頭を下に向けると、ぐらりと世界が歪んだ。
「……グエン?」
知らないから、そんなことを言える、はずだ。
誰か、他の人間と、身体を繋げてこい。
ジェスにそんなことを言われているんだとは、
思いたくもなかった。
「……離せ……」
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