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第5話 ひどい

「グエン。――なんで、だよ」  頭上から降ってくるジェスの声に、  なんでかなあ、と俯いたまま考えた。  どうせ、いつか家のために形だけみたいな結婚をして、  何人か子供を作って、  何もなければそのまま、騎士として生涯を終える。  そうすることは、知っていた。  だから、いつかは、誰かと、  ――ジェス以外の女を抱いて、  行き場のない恋なんていう、生産的じゃないもの、捨てることになることくらい。  知っていたけれども。 「……ディッカーになるには、やらなきゃいけないことがある」  今、目の前のジェスに、  それを捨てろと言われることを、  知っていたわけでも、覚悟していたわけでもない。 「俺は、……俺、は――っ」  目の前がブレて、喉が震えていて、格好の悪い声しか出なかったけれど。 「まだ、そんな覚悟は、……ない」  目の前がぐらぐらと揺れていて、ジェスの肩にすがりつくみたいにして、なんとか口にした。  番いのことは口外できないから、これ以上言えることなんてなかった。 「――グエン」  すがりついたグエンの腕を、ジェスは振り払いも、避けたりもしなかった。  ただ、そのまま受け止めて、少し顔を寄せてから、言った。   「俺、……ディッカーになったグエンが見たい」  ささやくようなジェスの声が、耳元に落ちた。    ――ひどい。  なんてひどい、願いだろう。 「騎士団の中で、俺のグエンがディッカーになって活躍してるところ。  ――見たいなあ……」  足から力が抜けて、支えに寄りかかって、ぐらぐらする視界を閉ざして、  考えるのを、やめた。  お前の、俺。  じゃあ、いいか。  ディッカーになった俺を、ジェスが、見ていてくれるなら。

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