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第9話 冗談でいい
寮の前につけられた馬車にはすでに荷物が運び込まれていて、
ジェスが御者と話をしていた。
「待たせたな」
マドックが二人に声をかけると、御者がジェスに向かって丁寧に頭を下げてから、マドックの手にした荷物を受け取ろうとした。
「いいよ、これくらいは自分でできる。――何話してたんだ?」
「坊ちゃん、これくらいはさせてください。もうそれほどないんですから」
御者はそういうと、マドックの手から荷物を預かって微笑んだ。
「ご友人のお父上が、屋敷で長く使っている馬具の職人の方だそうで」
「悪い、親父の仕上げを久々に見たから、思わず声かけちまった」
御者の言葉に被せるようにジェスが言う。
大人しくしている馬の首を撫でさすってやって、目を細めた。
「そうなのか。見ただけでわかるなんて、さすがだな」
「そりゃあ丁寧なお仕事をなさる職人さんですよ。ご子息にお会いできるだなんて光栄でした」
マドックの言葉に御者はそう返すと、頭を一つ下げてから、荷物を馬車へと運び入れた。
ジェスの親父さんが馬具職人だったとは初めて知った。
貴族の家に贔屓にされているとは、相当な腕の親父さんなんだろう。
「そういやお前、馬術も得意だったよな」
グエンが言うと、ジェスは最後に馬の背をぽんぽんと叩いてから、こちらへとやってきた。
「子供の頃から馬ばっかり見て育ったからな。貴族の坊ちゃん達とは比べものにならねえよ」
少し口の端を歪めてそんなことを言うジェスの首に、腕を絡めて引き寄せてやった。
「あー?なんだって?俺らが下手くそだって言いたいのかよ」
「そうじゃねえって……、グエンくるしい」
二人でじゃれていると、マドックが声を上げて笑った。
空いた両手を腰に当てて、あきれているようにも見える。
「お前らほんと仲良いよな。配属先も同じとこ探すのか?」
「おー、それもいいな。なあ、ジェス?」
そんなことが簡単なことでないことはわかっていたけれど、
笑ってジェスの顔を覗き込んでみる。
「あー、……ははっ」
笑って頭を掻いたジェスは、グエンの腕から逃れて、マドックに向き直った。
「……ま、俺ら次会うときはどのみち騎士だろ。そのときはよろしくな」
ジェスは、何事もなかったようにそうマドックに告げて、マドックはそれに応えて手を上げた。
「おう、お前らもな。――じゃあ」
「ああ……、元気でな」
なんとか別れの言葉を舌に乗せて、馬車に乗り込む友の姿を見守る。
御者がステップを片付けて、馬車の扉を閉めた。
もう一度ジェスに頭を下げてから、御者は御者台に乗り込み、
馬車はゆっくりと動き出した。
視界が開けて、ジェスとの間を冷たい風が通り抜けた。
冗談でいい。
笑って頷いて欲しかった。
軽いノリくらいで、良かったのに。
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