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第11話 体温

「いてて……」  肩を回しながら唸るハネスと二人、部屋を出る。  床で寝落ちしたせいで、あちこちが痛いらしい。 「悪いって。俺のせいだよな」  グエンはいつの間にか寝椅子によじ登っていたようで、快眠だった。 「まあ、いいよ。そのまま寝ちゃったの俺だし……。あー、腰……」  痛そうな様子に、今日の予定を思い浮かべる。 「あとで鍛錬あるだろ。その前に揉んでやろうか?」 「……あー、柔軟でもしといたら良くなりそう。手伝えよ」  ハネスの言葉に、確かになと思って頷いた。    それにしても、ハネスの部屋の寝椅子は相当寝心地が良かった。  寮の寝台よりずっと柔らかくて、グエンはすっかり寝入ってしまった。 「なあ、それよりお前、アレめちゃくちゃ気持ちいいな」 「……ああ、いいだろ」  ニヤリと笑ったハネスが、少し声を抑えて言う。 「気に入ってんだ。アレの持ち込みも寮監特権だな」 「……なるほど」 「たまには寝に来ていいぜ」    そう言って、腰を押さえながら階段を降りるハネスを見守りつつ、グエンも食堂へと向かった。  前日の雨は雪に変わっていたようで、階段横の窓枠には濁った雨雪がへばりついていた。  午後、鍛錬の前に体をほぐしていると、  ハネスはまた教官に呼び出されて、連れ去られていった。  魔法騎士科の連中は、ほとんどこの時期の鍛錬には出てこないので、  グエンは一人で鍛錬することになりそうだった。 「ジェス」  鍛錬場へ出る直前で、壁にもたれて腕を組んでいるジェスを見つけた。  思わず声をかけると、チラリとこちらを見たジェスが低い声をあげた。 「――あ?」 「これから鍛錬か?ちょうど良かった、一緒にやろうぜ」  近寄って顔を覗き込む。  覚悟していた甘い匂いはしてこなくて、だけど、ジェスは普段の穏やかな顔はしていなかった。 「いや……」 「なんだよ、準備まだか?手伝うぜ」  気だるそうな顔をしたジェスに、珍しいなと思う。  昨日は、帰りが遅かったのかもしれない。  少しだけ、胸の奥がツキンと痛んだが、そんなものは無視することにした。 「……お前、ハネスとやるんだろ」 「ハネス?あいつなら教官に呼ばれてったけど、俺はないよ。気にすんな」  体の前で組まれた腕を掴む。  ジェスの高い体温はいつも通りで、冷えた空気の中、いつもより熱く感じるほどだった。 「あっちでやろうぜ。押してやるから、お前もやれよ」  風のこない室内、日当たりのあるところへとジェスを引っ張って、肩を叩いてやる。  疲れているかもしれないけれど、見ないふりをすることにした。  ジェスは、ジェスだ。  なんだか反応の良くないジェスを座らせて、背中側に回る。  まずは前屈からだ。 「脚開けろよ。押すぞ」 「――ああ」  しぶしぶといった態で股を開いたジェスに、思わず目を見張った。  しっかりと筋肉のついた体の割に、かなり大きく両脚を開いて、ジェスが体の力を抜いたからだ。  騎士科の生徒たちは、魔法騎士科の生徒たちとは体の作り方が違う。  そのことをわかっていなかったわけではなかったけれど、  こんなふうに目の前で違いを見せられて、グエンは面食らってしまった。 「ジェス、え……、押して大丈夫か……?」 「あ?どういうことだ?」  アップが終わった後の鍛錬に混ざることがあっても、柔軟のところから混じったことはない。  この状態で押してしまっていいのか、むしろ戸惑ってしまった。 「いや、いいならいいんだ。……いくぞ」  声をかけて、背中を両手で押す。  体温の高いジェスの背中は、筋肉が柔らかくグエンの手のひらを受け止め、  ジェスの体は驚くほどなめらかに前に倒れていった。  ――ええ。こんなに軟らかいのかよ……。  おっかなびっくり背中を押していると、グエンの手のひらの下でジェスが唸った。 「……グエン、それあんまり意味ない……」 「――え、悪い。弱かったか」  ジェスの背中に押し戻されて腕の力を緩めると、ジェスは体を起こしてこちらを振り返った。 「手のひらじゃなくて、お前の体ごと体重かけて押し倒していい。  多分そうじゃないとあんまり意味がない」 「――った、」  ――体重。  ジェスの背に沿わせた手に、思わず力が入って、顔が熱くなった。  ――体重……? 「グエン?」  ジェスと目を合わせられなくて、目線を落とす。    綺麗に筋肉のついた肩、広い背中。その割にくびれた腰。  そこから左右に伸びる脚。腰から尻にかけての筋肉の形。 「――あ、……いや。体重、かける」  思わずまじまじと見つめてしまった体を視界から追い出す。  意味もなく窓を見上げて、正面の壁を睨んだ。  そのままジェスの背後に体を寄せようとして、今のままだとジェスの顔がものすごく近くなることに気がついた。  ――ダメだろ。  全然ダメだ。冷静でいられそうにない。  後ろから覆い被さっていいのか、背中合わせで体重をかけるのか。    もうわけがわからなくなって、  寄せようとしていた体を戻して、地面に腰を下ろした。   「え、これ、こういう感じでいいのか?」  ――結果。  後ろから抱きかかえるような格好で、  両脚の中にジェスを閉じ込めるみたいになってしまった。  閉じ込めた体温と、ほんの少しだけジェスの匂いがする。    このままくっついたら、どうにかなりそうで……。  匂いを吸い込んでしまわないように、口で息をしていると、  いつのまにか、片方の手で顔を覆っていたジェスが、低い声で言った。 「そのままでもいいけど、それで体重かけるならお前、  俺より軟らかくないと無理だろ……」 「……っあ!」  

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