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第13話 頼むから

 ぐったりとしたジェスを、地面に仰向けに寝かせて、  かすかに聞こえる浅い呼吸の音に、奥歯を噛み締めた。  あまりに近い距離に舞い上がって、まったくこの異変に気づけていなかった。  日焼けした頬は僅かに赤みがかっていて、かさついた唇――は、薄く開いていた。 「――ジェス、聞こえてるか?」  うっすらとまぶたが持ち上がって、ジェスの黒い瞳と目線がぶつかる。  意識はあるみたいだ。 「……わるぃ。急、に――」 「しゃべんな。大丈夫だ」  体を起こそうとするジェスを手伝って、背中に腕を回す。  熱の伝わる手のひらで、ジェスの体の震えを感じ取った。 「――寒い、か?待ってろ、上持ってくる」  そう言って腰を上げようとしたところで、胸元に、重みがかかった。 「……ああ」  ――ああって、お前……。  胸の中に落ちてきたジェスの頭を、咄嗟に、支えて――   「……ジェス――!」  しばらくどうしようもできずに固まっていたところへ、  教官とハネスが戻ってきて、ジェスを運ぶのを手伝ってくれた。  さすがに、意識のほとんどないジェスを一人で運ぶのは、グエンには無理だった。 「じゃあ、悪いがたまには様子見に来てやってくれ」 「はい。――大丈夫です。隣ですから、ついています。」  教官の言葉に返事をして、礼をする。  自分一人では何もできなかった。  そのことに歯噛みしたくなるけれど、紛れもない事実でもあった。 「無理するなよ。ブリュージュは寮監の仕事で忙しいだろうが、他のやつに任せてもいいし、職員にも伝えておくから」 「はい。ありがとうございます」  教官は、グエンに向かって頷いてみせてから、  ジェスの顔を見て、それから部屋をぐるりと見渡した。 「巡回のあと着替えもしないで帰ってきたんだろうな。  回復したら指導があるから、覚悟しておくよう伝えておいてくれ」 「――巡回……?」    思いがけない単語に、うまく返事ができなかった。  教官の視線の先、部屋の奥に、見慣れない制服がかけられていた。 「ああ、知らなかったか。こいつ週末は見習い扱いで巡回任務に同行してるんだよ」 「見習い、ですか」  ――知らなかった。  毎週のように出かけていくジェスのことを、すっかり誤解していた。 「多少の小遣い稼ぎになるし、団の繋ぎもできるからな。  ……まあ、あんまり人に言うことじゃないか」  悪い、聞かなかったことにしてくれ。  そう言って部屋を後にした教官を見送り、それからジェスの顔を見下ろした。  団の繋がり。  そうか。  卒院したら、そこの団に、入るのかな。  それなら、ジェスは中央を出るつもりはないということだ。  未練がましさを自覚しつつ、我知らずほっとする。  グエンは、家の指示で中央を出ることができない。  でも、どの団に所属するにせよ、中央ならいつでも会える。  そんな時じゃないのに、嬉しくなってしまった。 「……グエン」  小さく、名を呼ばれる。  緩んだ頬を引き締めて、振り返る。 「気づいたか?気持ち悪くないか、少し水……」  水差しを手に寝台に向き直って、ジェスの目が閉じたままなのに気がついた。 「――ジェス……?」 「――グエ……ン……」  やばい。  思わず口を手のひらで覆って、出そうになった声を抑えた。  意識のないジェスが、自分を呼んでいる。  そのことに、どうしようもなく体の熱が上がってしまった。  違う。  辛いのに違いない。  喜んでいる場合じゃない。 「……んん……」  水差しを置いて、たらいの水に布を浸す。  軽く絞って、ジェスの額に当てた。  赤らんだ頬、汗のにじむこめかみ、薄くひらいた唇。  少しカサついている。  喉、渇いてるだろうか。 「……グエン」  ああもう。――やめてくれ。  こめかみの汗をぬぐい、あごのラインもぬぐう。  少し上掛けをおろして、首元をくつろげ、首筋もぬぐう。 「……ん……、っふぅ」 「……くそ」  手を引っ込めて、頭を抱えた。  冷静になれ。    ――頼むから。      

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