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第17話 夢

 ――だから。  こんなふうに距離が近いと、どうしたらいいのか、もうわからなくなる。  目を覚ますと、自分の体は、ふかふかの寝椅子の上、なぜか窮屈に眠っていた。  ジェスが、腕の中に、いた。 「――っ?!」  はじめは、ただ暖かかった。  それから、腕の中の重みに、ほのかに漂うジェスの匂い。  思わず頭に鼻先を突っ込んで、思い切り深呼吸をした。  ぶっきらぼうに振る舞いながらも、グエンに身を寄せて、ジェスが恥ずかしそうにするから、  首すじに頭を埋めて、鼻息荒く腰を押し付けた。  ――そういう、ふしだらな夢だった。  夢だったはずだ。  少しばかり、夢にしては、手触りも、匂いも、あまりにリアルではあったけれど。    時々みる、甘くて苦い、ふしだらな夢。  そのはずだった。  目を覚まして、腕の中の体をかき抱いて、腰を押し付けている自分を見つけるまでは。 「な、ん、……ジェ、……ジェス」  慌てて手を離して、腰を引いて、ジェスの様子を確認する。  外はほんのりと白み始めて、カーテン越しに入り込む光はまだ弱々しかった。  その弱くて薄ぼんやりとした光の中で。  ジェスは、寝ている。  ――眠っている。  なぜか、グエンの腕の中で。  暖炉の火は落ち着いていて、室内にはほんの少し、ひんやりとした空気が沁み込んでいた。  ジェスの寝息は規則正しく、思わず頬に触れて、ほっと息を吐く。  体は冷えていないし、熱が上がっているわけでもない。  頬に触れた手に、ジェスが頭を動かして、すり寄った。  その無意識の動きに、胸の奥をぎゅうっと掴まれて、それ以上動けなくなった。  ――寝椅子は気持ちいいけれど、二人は、狭い。  どうでもいいことを考えてみて、それから絡み合っていた脚を、そうっと解く。  ジェスの片脚が寝椅子から落ちそうになって、慌てて体を跨ぐようにして、その脚を押さえた。  必然、腰が前に出る。  落ちそうになっていたジェスの脚を引っ掛けてこちらへ寄せ、自分の反対の脚に乗せる。    そのまま、脚を下ろして、  結局、足は絡んだままになった。  ――降りられない。  腕の中の重み。  息をしている。  背中に回された腕。  背中に――抱きつかれている。  そのことに、体が大きく震えて、自分の呼吸の音がやけに大きく聞こえた。  ずり落ちた上掛けと、そこからはみ出した脚。  腕を伸ばして、ジェスを起こしてしまわないように、そうっと引っ張り上げる。  二人で寝るなら、ジェスがこちら側に来るべきだった。  寝椅子の背もたれが冷気を遮って、暖かい。  ――そうじゃない。  そうじゃないのに、この状況を、心の底では嫌というほど嬉しがっている自分がいて、  ――目を閉じた。  上掛けを引き上げた腕を、そっと、できるだけ、そっと、ジェスの背に回した。  起こしてしまわないように。  そうだ。  これは、甘くて、苦い、――ふしだらな夢だ。 「――ん、んん……」  腕の中、小さく丸まっていた体が、ぐいっと伸びた。  伸びて、頭が仰いて、グエンの眼前に、その顔が現れた。  正直、息が止まる思いがした。  あと少し。  偶然を装って、触れてやろうか。  そんなことを思った途端に、薄く目が開いて、しばらく見つめ合った。 「……おはよ」  内心の不埒な思いを誤魔化すように、できるだけ普通に朝の挨拶をすると、  ジェスは、グエンの目を見たまま、ゆっくりと目を見開いた。    それから、目線を下ろして薄く笑い、ああ、と一言返した。  顔を伏せてもぞもぞとグエンから離れ、また口を開く。 「悪い、寝ちまった」 「――なんでだよ。びっくりしたろ」  何事もなかったように、腕の中から離れていこうとする体温を、  つい、    ――思わず。  抱き寄せて上掛けでくるんでいた。  やってしまったあとに、驚きで、腹の筋肉が収縮した。 「――狭いんだろ」 「詫びにあっためとけよ」    言い訳のように口にして、引き止める理由にもなっていないと気づく。  ジェスから、顔が見えない角度で、良かった。  誤魔化しようがないほど、  顔が熱くなっていた。 「……俺風邪引いてんだけど」 「……――あったかいだろ……」  お前が、ここに来たんだろ。とは、言えなかった。  

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