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第20話 言葉で

「ハーウッド先輩、お届けものです」  講義の終わり、最近ハネスの代わりに郵便物の配布を対応し始めた後輩が、グエンを呼び止めた。  振り向いて受け取り、礼を伝える。  裏を返して、実家の封蝋が押されていることに、胸の奥がざわりとした。  手紙で知らされることに、良い知らせなんて、ほとんどない。  ため息をつきつつ自室に向かう。  扉を開けて中に入り、グエンは足を止めた。  管理課と繋がる、扉。  マイカと自分、それぞれの居場所から交渉の部屋へ繋がる魔道具だ。    その下から、いつかと同じように封書が一通、顔を覗かせていた。  暖炉に火を入れて、水の入った鍋をかける。  週末ではなかったけれど、この日もジェスは外出しているようだった。  制服を外套に包んで、街に出ているんだろう。  あの制服に、身を包んでいる姿を見たかったな。と思う。  あれから、ジェスは元気になって、  また、グエンは無害な隣人になった。  薪から火があがり、部屋の空気が少し緩んだ。  暖炉の前、椅子に腰掛けて、二通の封書を手に取る。  家からの封書を、テーブルに放った。  内容は、なんとなく、想像ができる。  だが、ディッカーになれば、少しの猶予を得られるかもしれない。  だから、――先に管理課の通達を読むことにした。   「……共鳴具……」  管理課からの通達内容は、番い同士で用いる連絡用魔道具となる「共鳴具」を用意するように。というものだった。  魔道回路の設計が完了したので、回路を書き込むための素体を用意せよ。ということだ。 「――俺だけで用意するの、これ……」  通達の内容としては、グエンが一対の素体を用意するように。となっている。  だが、相手はどう見ても、接近戦の多い騎士で―― 「え、あーいう人たちって、なんならいいの……」  しばらく考えて、グエンは暖炉の火を小さく崩した。  外套を羽織り、――あの襟巻きを巻き付ける。  もう一度通達を確認して素体の条件を頭に叩き込み、自室をあとにした。  空は日が傾き始め、夜の街の入り口を開け始めていた。  グエンはその足で閉店間際の宝飾店になんとか滑り込み、店主に相談を持ちかけた。 「騎士のご身分の方の、宝飾品でございますか……」 「ああ……。俺は魔法騎士科の生徒だから、接近戦の多い騎士のことはよくわからないんだ」  つい先日も、ジェスのあまりの体の軟らかさに驚かされたばかりだ。  騎士という人々のことを、自分の物差しだけで考えるのは、あまりに危険だと感じていた。 「その……、どのような意味合いでの、宝飾品でございますか」  少し様子を伺うようにして言葉を口にした店主の顔を見て、はたと気がついた。  誰か他の人が身につける宝飾品。  何か、意味のあるものに違いないと考えるのは、無理のないことだった。   「あ……、ああ。魔道具だ。魔道具の素体とする。  その――何か意味があるとかそう言うわけじゃ」 「ああ、――さようでございますか」  でしたら、と、店主は立ち上がり、引き出しの中からいくつかのシンプルな宝飾品を取り出した。 「身につけて発動させるタイプの魔道具ということでございますよね」  そう言う店主に、頷いてみせる。  目の前に並べられたのは、全てが、金属のみでできた輪っかや、少し曲がった細くて小さな棒状のもの、指輪などばかりだった。 「石を、入れる必要が……」 「はい、――はい。大丈夫でございますよ。  こちらは全て、形状の見本でございます。石は必ず必要でございますね」  安心させるように微笑む店主に、少し肩の力が抜けた。  魔道具の素体の依頼に、慣れているのだろう。 「……ああ。そうだ……」  任せていい。  そう思えた。 「――ですので、こちらのペンダントタイプもよろしいですが、  処置をお出来になるなら、臍飾りが一番安全にはなりますね」 「……へそ……」  脳裏に、ボタンをかけ忘れた服の裾から覗いたへそがよみがえる。  そのまま、その時自分がなんの紐を解いていたのか、どこに顔を寄せていたのかまで思い出して、  両の手で顔を覆い隠した。 「――当店にお越しいただければ、初級治癒術を扱える者ならご用意いたしますよ」  店主の気遣いはありがたかったが、  そういうことでは、なかった。 「――ああ、初級治癒術」 「はい、さようでございます。専門の方でなくとも学ぶことが可能だとか?」  店主の言葉に思考を逃すと、店主も穏やかに微笑んで返してきた。  へそはともかくとして、初級治癒術は、使えるようになっておいて、きっと損はない。 「そうだな……。せっかくだから学んでおこう。石を、見せてもらえるか」 「はい。はい、少々お待ちくださいね」  店主はそう言うと、手を叩いて店の者を呼び、いくつか指示をして石を取りに行かせた。  それから、茶器に湯を注ぎ、ゆっくりと茶葉を蒸らす。 「お客様」  ゆったりとした動きで、ポットから茶を注ぎ分けながら、店主が口を開いた。  グエンが沈黙で先を促すと、店主はカップをこちらに寄せて、穏やかに微笑んだ。 「宝飾品は、決して安い買い物ではございません。  お客様がどのようなお考えで選ばれるにせよ、受け取られる方が、そこに意味を与えることもございます」  皿の上の茶菓子も手振りで勧められて、グエンは軽く頷いてそれを断った。  家にいた頃から、あまり甘いものを口にすることはなかった。  ジェスと食べる焼き菓子は、美味しいと思うのだけど。 「逆も然りでございます。  宝飾品は、意味を届けるものではなく、その意味を刻むものでございますから」  店主の言いたいことがよくわからなくて、じっと言葉の続きを待った。  店主は、ゆっくりと茶をすすってからカップを戻すと、グエンに微笑みかけた。 「お渡しの際は、意味のありもなしも含めて、きちんとお相手に言葉でお伝えになることです」 「……ああ……。そうだな……」    言葉で。  偽りなく。  マイカとの間でなら、それが、できる気がした。  

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