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第23話 当たり前
ジェスは、グエンから制服を回収すると、
何事もなかったように飯を食って、そのまま自室へと戻って行った。
正直。
ジェスに、同じ制服を着てみて欲しかったと言われているようで、嬉しかった。
もちろんジェスがそんなことを言うわけもなく。
ただ楽しそうに装備を整えて、眺めて、満足したらはぎ取っていった。
グエンも、ジェスに襟巻きを巻いてやろうかと思った。
――きっと似合う。
静かになった自室、デスクの前。
引き出しから、未開封の封書を取り出す。
封蝋を指で弾いて、それから、開封する。
開けたくはなかったけれど、今日開けなければ、明日はもっと開けたくなくなる。
ざっと目を通して、今日、思い出せなかった人物の名前をそこに見つけた。
「デーテルハイド子爵――、ああ……」
今日街で見た、ビートの恋人。
エミリア・デーテルハイドの名が、そこにあった。
グエンの婚約者候補として。
「初級?ああ、お前なら受け入れしてもらえるだろう。
教授に話しておくから、次の授業から参加できるようにしとけ」
初級治癒術の科目を履修したいというグエンの申し出に、教官はあっさりと頷いてくれた。
期中からの参加は、正直難しいかもしれないと思っていたので、ほっと肩の力を抜く。
「ありがとうございます」
「下の学年の生徒と一緒になる。ビビらせるなよ」
教官の軽口に笑って返して、教官室を後にする。
教官からの覚えが良くなれば、こうしたことも容易になる。
なにも――、
無駄なことなどない。
理由のわからなかった昨日の出来事に蓋をして、階段を降りた。
教科書を手に入れて、すでに進んでいる分を取り返さねばならない。
初級治癒術の授業は、すでに三回行われている。
軽い切り傷や、擦過傷の治癒。
その程度しかできない治癒術でも、その後の感染症の予防のためにも現場では使える能力になる。
共鳴具の件がなければ、こんな発想はしなかった。
新しい知識は、やはり武器になる。
何一つ、無駄なことなんてなかった。
それから、ハネスに勧められた重力魔法の科目も追加した。
どちらも期中からの参加だったから、未受講分の知識を埋めるため、しばらく勉強にかかりきりになり、
鍛錬場は少しばかり疎遠になった。
人の減ってきた鍛錬場で、またジェスの準備を手伝うことになるのを避けていたのは、否定しない。
「……最近、ジェスと一緒にいないな?」
重力魔法の授業からの帰り道――この日は実践練習だったので、外の雑木林に出ていたのだが、
ハネスがなんとはなしにそう呟いた。
そうかな。
以前は、空いている時間が少し多かっただけだ。
「――まあ、お互い忙しくなったのかもな」
そう言うグエンに、ハネスはうーんと唸ってから、こちらを見た。
「まあ、グエン急に授業詰めたしな。二つ増やしたろ」
「――ああ……」
「治癒術とか、お前みたいなのが急に混じったらかわいそうじゃない?他の子達」
グエンみたいなの、とはどういうことか。
眉を上げてハネスを見やると、ハネスは少し口の端を上げてから言葉を続けた。
「高位貴族で、成績のいい、めちゃかっこいい先輩」
治癒術は、治癒術師、医務官を目指す者たちのための専門科目だ。
初級なら魔法騎士科の生徒も受講できるが、教授の承認もいるし、最終学年に限るので、ほとんど受講者はいない。
確かに、二年も上の先輩が急に混じったら、萎縮するのかもしれない。
「――かっこいいかどうかは主観だろ」
客観的事実は、確かにその通りでも、主観的事実は受け取り手による。
訂正するために言葉をさしはさんでみると、ハネスは今度こそにかっと笑った。
「かっこいいだろー。お前だけ体の作りが違うんだぜ。オーラバリバリだろ」
「体の作りが違うのは――」
そんなことを言われて、思わず反論しそうになる。
だが、途中で言葉を止めた。
口元を手のひらで覆う。
「――ん?」
「……いや……。医務官と騎士じゃ、体格違って当たり前だろ……」
当たり前なんだ。
体の作りが違うのも、――目指す先が違うのだって。
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