24 / 31
第24話 訪れ
少しずつ、身の回りのあちこちに春の芽吹きを感じさせる季節になってきた。
霜の立つ土の下、ほんの少し顔を出そうとしている野草だったり、
朝の光につやめいたしずくを垂らす、柔らかい顔をしたつららだったり。
あと半月もすれば最後の科目の試験も終わり、最終の生徒たちが卒院する日を迎えることになる。
マイカとの番い交渉――体を重ねる約束の日も、あと一週間ほどに迫っていた。
ハネスは、ディッカーの資格を持ちながら、番い候補はまだいないと言うことで、
配属先を比較的自由度高く選んでいた。
ジェスとはそうした話をしたことはないけれど、
相変わらず見習いの勤務を続けており、おそらくそのまま配属するつもりだと察せられた。
「――グエン、どっか出かけんの?」
ジャケットに襟巻きだけを巻き付けて、陽の光さす中へ足を踏み出そうとしたところで、呼び止められた。
「ああ。――何か用事があるか?」
買い物の代行くらいなら頼まれてやろうと思って足を止めると、ハネスが少し困ったような顔をして、グエンを手招いた。
「……あのさ。お前にお客さん」
小さくひそめた声で言われて、心当たりのなさに首を傾げる。
「寮の面会室じゃない方がいいと思って、院の面会室に通してもらってる。
待たせてるから、今から向かえるか」
「――誰?」
眉を下げて、小さく首を傾げたハネスから伝えられた人物の名に、グエンは眉をひそめるしかなかった。
春の兆しが見えはじめたとはいえ、まだ空気は冷たく、しんと床から冷える頃合い。
寮から離れた院の建物は、週末の今日ほとんど人気がなかった。
廊下に立つ誰かの姿が目に入り、なんとなく姿勢を正す。
その人物はグエンの姿を認めて、静かに首を垂れた。
「中でお待ちでございます」
やや年嵩の女性は、デーテルハイドの家の者なのだろう。
頷いてみせて、開かれたままの扉を軽くノックした。
「お待たせしたようで、申し訳ありません」
「……ハーウッド卿」
室内にいた女性は、一瞬顔を曇らせてから、すぐに表情を整えて、何事もなかったように立ち上がり一礼した。
休みの日の院内は寒く、室内も暖炉の火は入れられていたが、空気が冷えて滞っていた。
「申し訳ありません、男ばかりの、情緒もない場所で」
女性の体にこの寒さは堪えるだろう。
廊下にいた者も、きっと冷え切っている。
ハネスも最大限配慮してくれただろうが、きっと実際は職員が対応したはずで、これ以上望むのは酷でもあった。
手振りで腰掛けるよう促し、それから暖炉の前にかがみ込む。
細い薪をいくつか足して、それから鍋の中の水の具合をみる。
「――長居するつもりはございませんの。ぜひ、お気遣いくださいませんよう」
背後からかけられた言葉に、鍋を戻して、膝を伸ばした。
体の向きを変えて女性の――エミリアの顔を見る。
心なしか、青ざめていた。
ともだちにシェアしよう!

