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第32話 いまさら

    「――――っ」  目を見開いて、止まっていた息を吸い込む。  あえぐように空気を求めて、浅く呼吸を繰り返した。  ――また、あの夢だ。  腕の隙間から噛み合ってしまった、  ――目線。  まだ薄暗い外の空気を見上げて、体の力を抜く。  重怠い体の熱を意識して、うんざりとした気持ちになった。  こんなふうに飛び起きるまで、  自分がなんの夢に身を委ねていたのか。  目に見える形で突き付けられているようで。 「……くそ……」  何に悪態をついているのか、もうわからなくなっていた。  ただ、悪態をつく権利も、あの夢を厭う権利も、  自分にあるわけもないことだけは、わかっていた。    そうだ。  ――はじめから、わかっていた。  どう転んでも、こうした未来が自分に訪れることくらい。  ――わかって、いた。      それでも欲しがったのは自分で、    全て壊したのも、  自分だ。 「春の魔獣討伐に向けて、数名応援が来る。  各自この地域の特性などを応援の者へ伝えられるよう整理しておくように」  身支度を整えて参加した朝会で、この春の討伐予定が早められたこと、応援が来ることが告げられた。  隊長の言葉に各々が返事をし、その様子を眺めていた隊長が、こちらを見て声をかけてきた。 「ジェス。  お前が中央から来て困ったこと、驚いたことがあれば、応援の連中も同じように困るはずだ。  お前は砦内部の慣例や運用のフォローを頼む」 「はい。承知いたしました」  名指しの指示に、頷いて応える。    確かに、場所が違えば常識の違う部分もいくつかあり、初めは戸惑うこともあった。  討伐応援の騎士たちが困らないようにするのは、自分が適任だろう。 「お前、春の討伐はまだ二回目か。  この季節の魔獣は殺気立ってるからな、気をつけろよ」 「――はい。十分に気をつけます」  それから、この日の予定を全員で確認し直して、朝会は解散した。  前の晩に夜番をしていた者たちは自室へと下がり、そのほかは各自の予定に取り掛かっていく。  周りの様子を眺めて、それから自分も準備にかかることにした。  まずは、応援の騎士たちのための居室整備だ。 「ジェス、こっち頼む」  呼びかけに頷いて、きびすを返す。    朝の光が顔を覗かせ始めた廊下の隅、ジェスは居住エリアへと足を進めた。 「お前、冬の間休んでたか?」  騎士のニルガスに問われ、顔を向けて眉を上げる。  質問の意図が読めなくて、すぐに答えることができなかった。 「通常の休暇じゃなくて、長期休暇。  討伐期間入ったらしばらく通常休暇もないから、  今のうちに取っとくか、せめてちゃんと言っといてやれよ」 「――言っておく?」  誰に何を。    わからなくて問い返すと、ニルガスからはあからさまに呆れた顔をされた。 「――お前、なあ。ただでさえほとんど会いに行ってないだろ。  お前が振られないように心配してやってる俺の、配慮に、気づけよ!」  そう言いながら肩を掴んで揺さぶられ、顔をのけぞらせてため息をつく。  なんとかその手から逃れて、両手を上げて降参のポーズを示すと、ニルガスはじっとりとした目でこちらを眺めた。 「――すみません、ありがとうございます。  長期休暇はいりません。大丈夫です」  そんなことを心配してもらう必要はなかったけれど、とにかくお礼は言っておくべきだと思った。  愛想のない自分に、こうして付き合ってくれる人も貴重だということはよくわかっている。 「……お前、ほんといい加減にしないと捨てられるぞ」 「っは。――そうかもしれないですね」  捨てられる。  ――今更だ。  

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