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第34話 緊張

「ガレスさん。早速打ち合わせに入りましょう。  そちらの隊長殿からは、ある程度のことを聞いていますが、少し気になることもありまして」  隊長がそう促すと、ガレスはグエンに荷下ろしなどを指示し、隊長の案内に従って砦へと入っていった。  出迎えに出た他の者たちもそれにともなって砦へと移動し、気づけば二人だけになっていた。 「――こっちだ」  馬に乗せたままの荷は少なくない。  馬ごと居住エリアへ移動すべきだった。  頭を傾けて行先を示し、ガレスの馬に歩み寄って手綱を取る。  馬は少し頭をもたげて耳を震わせたが、首から肩に向けてゆっくりとなでてやれば、鼻から息を吐いて緊張をといてくれた。 「……いい子だ。悪いな、少し付き合ってくれ」  小さく話しかけてやって、手綱を引く。  馬は、ジェスの示す方へと足を進めてくれた。  背後から、少し遅れてもう一頭ついてくる気配がある。  つい手綱を握る手に力が入って、馬が少し耳を震わせた。  その首を、そっとなでる。  温かくて、少しだけ落ち着くことができた。  居住エリアには、荷運びの馬をつなぐ場所がいくつかある。  部屋に近い場所に馬を繋いで、ぽんぽんと首を叩いてやる。  荷下ろしも必要だが、こいつらの世話もしてやりたい。 「部屋は、この二部屋だ。中へはそちらの出入り口から入れる」    ここから建物へ入れる勝手口を示し、ジェスは近くにあった桶を手にして水汲み場へ足を向けた。  背中に刺さる視線が痛くて。  この場を離れたかった。  なのに―― 「……ジェス」  背後からの呼びかけに、  思わず足を止めてしまった。 「――ああ」  一瞬、奥歯を噛み締める。  ――落ち着け。 「……久しぶり。」  それだけを口にして、今度こそ、水場へ向けて足を進めた。    聞きたいことは、たくさんあった。  元気にしているのか、  なぜこんな地方への派遣に出てきたのか、  中央の騎士団にいるだろう他の同窓生のこと。  ――あの夜、どうして自分に気づいたのか。  自分の罪に、グエンが、気づいているのか。  気付かれていないといい。  この卑怯で、欲深い自分の有り様に。  だけど、何を聞くこともできず、  何を聞かれることもなく。  二人はその後、黙々と荷物を下ろし、各々の部屋へと運び込んだ。  全ての荷を運び込むと、グエンは少しためらいながら医務室の場所を尋ねた。  一瞬――怪我でもしているのかと思ったが、  応援の騎士が治癒術持ちだったことを思い出す。  この砦の医務官との顔合わせだ。  ジェスは、軽く首を振ってグエンに告げた。 「今日は術師は不在だ。先行隊と共に現場に出てる。  医務室は案内するけど……、挨拶は次の機会だ」  軽く頷いたグエンに、砦内を案内するので付いてくるよう促す。  グエンは頷いて、ジェスの少し後をついて歩き出した。  ――その目を見ることは、できなかった。 「――洗い物は、ここに出す。各部屋から回収されるわけではないから、溜め込まないように」  生活に必要な動線を案内して歩く。  足を止めて説明をするたびに、視界の端でグエンが頷くのを確認する。  最後にまた居住エリアへ戻り、馬の水を確認する。 「厩舎は、砦の出入り口のすぐ脇だ。俺が二頭とも入れてくるから、お前はガレス殿に合流するといい」  繋いだ縄を解きながら言って、二頭の手綱を手元に揃える。  グエンの馬は少し緊張気味に耳を動かしたが、顔を覗き込んでやれば、鼻先を上げて応えてくれた。 「――ジェス」  その馬の向こうから、グエンの声。  思わず目線をやって、そちらを見てしまった。 「案内、ありがとう」  静かな笑みを浮かべたグエンは、  自分が知っていたよりもずっと、痩せて、疲れて見えた。 「――ああ」  もっと。  朗らかに笑うグエンが、好きだった。  

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