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第35話 価値
厩舎に馬を繋ぐと、ジェスはそのまま討伐準備の面々に加わった。
明日にも大人数で移動するため、兵站管理のために呼ばれていた。
「お待たせしました。どこまで済んでいますか」
建物に入ると、想定よりも資材が少ないように見えた。
まだ用意しきれていないのならば、まずはそこからすべきだった。
「全部出し切ってあるよ。ディッカーの――ガレス殿だっけ。
あの人が先行で向かったから、もういくつか荷出ししたんだ」
「えっ、さっき到着したばかりですよ……」
中央からは少なくとも数日、野営もしながら移動してきたはずで、体を休める間もなく前線に出ることが信じがたかった。
「どうしても早く前線に向かいたいってさ。
隊長が慌てて伝令よこすから、俺も大慌てで準備したよ」
ディッカーといっても、潤沢な魔力で大規模な魔法を扱えるというだけで、肉体そのものが頑健になるわけではない。
ガレス殿がどんなにすごくても、ディッカーだからといって、人並外れた体力や気力があるわけではない。
――なにか、急ぎたい理由があったんだろうか。
「すみません。案内は後にして、こっちにきた方が良かったですね……」
ジェスの言葉にニルガスはにかっと笑って手を振った。
「いいよ別に、なんとかなったし。あの騎士も、同行者に早速おいてかれたから困ってるんじゃないか?」
――確かに。
仕事仲間になるはずだった治癒術師も、同行のディッカーも前線で、グエンは一人きりだ。
「隊長がなんとかしますよ。――やりましょう」
「ん、そうだな」
資材管理の確認と荷積みの支度は、それから夜になるまで続けられた。
「ジェス。あの魔法騎士、――ハーウッドだったか。
お前の同窓生だよな?」
遅めの食事をとっていると、通りすがりざま副隊長に声をかけられた。
「――はい」
「よし、前線明日からお前も出ろ。あっちの天幕設置とかしてやってくれ。
腐獣がでたから、治癒術師が足りん」
「――腐獣……、ですか」
頭の中で魔獣の知識を洗い直す。
さまざまな魔獣が、腐敗核の発生に影響されて変異したものの総称だったはずだ。
対処には結界による包囲が必須で――
「あ、ディッカー殿が緊急で発たれたのも、そのせいですか」
「――あー、どうだろう。まだ詳しく聞いてないけど、そうかもしれんな。
とにかく、あの騎士はすぐ動いてもらわないといけないから、お前が前線の生活導線をつくってやってくれ」
「あの」
思わず声を上げてしまって、副隊長に顔で問われる。
一瞬、言葉が出なかった。
「――確か、あいつ、空間魔法も得意なはずです。
結界での閉じ込めが必要になります、よね」
ディッカーとして選ばれると言うことは、そういうことのはずだった。
グエンの価値は、治癒術だけじゃない。
戦える場所で、きちんと評価されるべきだ。
見つめ返した先の副隊長が少し目を見開いて、それから軽く頷いた。
「よく頭に入ってたな。よし、隊長に確認しておく。
とにかくお前はハーウッドの補助だ。頼んだぞ」
「――はっ」
よろしくな、と言い置いた副隊長は、ジェスの応答を待つこともなくさっさと歩き去ってしまった。
「了解、しました……」
しばらく、その場から動くことができなかった。
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