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第39話 告白
何も言えなくなった自分に、グエンはそれ以上何も言わなかった。
ただ、水ですすいだ布を固く絞り、それを差し出してきた。
のろのろと手を差し伸べると、グエンはなぜか布を手渡しはせず、
二人の間、差し伸べた手と手が、不自然に間を開けて向き合っていた。
思わず顔を見上げる。
目があって、グエンが薄く笑った。
「ジェスは何も悪くない。
……俺を、ディッカーにしようとしてくれて、ありがとう」
違う。
「俺に、期待してくれて。
ありがとう。」
手のひらに、冷たく濡れた布が触れる。
「期待に応えられなくて」
グエンが、そっと目線を落として手を引っ込めた。
「……ごめん」
手渡された布は、グエンが握りしめた形のまま、
歪にゆがんで、冷たかった。
「食べよう」
「今でも」
唇から、言葉が滑り落ちた。
言えることなんて多くない。
本当のことを伝えるのが正しいとも思えない。
それでも。
「俺は、今でも。……お前のことは、誇らしい」
伝えなければならないことは、ある。
グエンの視線が地面をなぞって、それから、少し持ち上がった。
いつのまにか夜の色は深みを増して、明かり取りから沁み込む光は、いっそう細かく揺らいでいた。
「自慢の親友で、……た、大切な人だ」
グエンの瞳に、灯りのゆらめきが滲み込んだ。
「怖いとか、嫌だとか。そんなのは、ない。」
ゆらめく瞳とかちあって、その目尻が、ほんの少しゆるんだ。
「――うん。……わかった。
ありがとう、ジェス」
ざわめきは遠く。
二人、静かに向き合っていた。
翌日。
ガレスとグエンは再び前線へ向かい、グエンに伴ってジェスも前線へ出た。
拠点当番に残るニルガスには、出がけに背中を叩いて激励された。
「大変だな。俺も昼前にはそっちに出るから、怪我すんなよ」
「はい」
「グエンも、あんまり無理してジェスを困らせないでくれよー」
ニルガスがおどけていうと、グエンは少し困った顔をして頷いた。
いつの間にか、グエンもニルガスから後輩扱いされるようになったみたいだった。
少しだけ、ハネスを交えた三人でつるんでいた頃のことを思い出した。
「夜間、大物の出入りはなかったようだ。
この小さい反応は小型のやつだな」
前日に敷いた結界の魔道具から、副隊長は夜間の状況を確認して首を傾げた。
「沼ネズミの巣はこの近くだったよな」
その言葉に、周りの騎士数名が頷く。
「群れごと全滅じゃなくて、少しは生き残ってたってわけですかね」
「そうかもしれん。三回反応がある」
まあ、時間の問題だろう。
そう言った副隊長は、魔道具を回収して立ち上がった。
再び森の中を、奥へ。
ガレスが展開した結界が、腐敗のにおい漂う森の中へと広がっていく。
しっかりと休みを取ったガレスとグエンの顔色は、前の日と比べて少しだけ良くなったように見えていた。
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