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第41話 安堵
「――――!」
「…………――――!」
世界が回って、そのまま体に力が入らなくなった。
「――――!――!!」
ざわめきが耳の上を通り過ぎていく。
滝壺に落ちる一枚の木の葉になったように、体があっという間に冷たくなって、ぐるぐると世界が回っていた。
水底に落ちた意識はぐるぐると回り続けたまま、
時折誰かの肩にもたれて、冷たくなった身体を支えられていたり、
グエンが自分を呼ぶ声が聞こえたり、していた。
その声が、あまりに悲痛で。
そんなふうに、苦しめたくはなかった。
名前を、
――呼びたかった。
「――グエ……ン」
きし……、と、何かの軋む音がした。
目の前は薄暗く、時折ゆらめくのはろうそくの火のようだった。
体を、硬い寝台に横たえていることが知れた。
「ジェス……」
夢のように聞こえてくる、かすれた声に懐かしさを感じた。
前にも、あった。
寝台の上、寒さに怯えてその名を呼んだら、眠りの淵から引き起こしてくれた夜。
手を差し伸べるグエンの優しさに、どうしてか、際限なく甘えられた夜。
まだ己の罪深さを知らずにいた頃の、甘くて優しい記憶。
……グエンが、気持ちをくれていた頃のこと。
その夢から覚めたくなくて、まぶたから力を抜いた。
あの頃。
確かに自分は幸せだった。
「ジェス。……頼む、返事してくれ……」
グエンの言葉。
気づけば、指先を包む温かい体温。
落ちていくまぶたをこじ開けて、温かい方に目を向ける。
そこには。
記憶よりも少し小汚くなったグエンが、
見開いた目に涙を溜めて、こちらを見つめていた。
「――グエン……」
「ジェ……ス……っ!」
名を呼んだグエンの顔はくしゃっと歪んで、すぐにそらされてしまった。
泣かせたいわけじゃないけれど、その顔を見ていたかったのに。
「……三日……」
細い飲み口のついた吸水器で水を飲まされて、腕に繋がれた細い管に目を止めると、グエンがぽつりぽつりと状況を説明してくれた。
「薬が間に合っていて……、本当に、……良かった。
――あのネズミ……、覚えてるか?」
少し口をつぐんだグエンに目で頷くと、グエンは言葉を続けた。
「ジェスが叩いたあのネズミが、核だった。
直接核から傷を受けたから……、毒の周りが早かったんだ」
「――傷、なんて」
どこに受けたんだったか、言いかけて止まる。
脇の下、鎧の隙間。
ほんの少し、爪か何かがかすった感覚。
グエンは自らの左腕を持ち上げて、その脇の下を横向きに撫でた。
「ここに、薄く」
「――そ、……か」
つまりそれは、ほんの些細な傷でも、核から受ければ致命傷になり得るということで。
自分は、グエンを守れた。
そういうことだ。
「俺の油断のせいだ。……本当に、ごめん」
「……仕事、だろ」
重荷に感じてほしくなくて、グエンの言葉を押し返す。
目の前がくらくらと揺れて、今度こそ、落ちてくるまぶたに抗うことができなかった。
それでも、指先と、胸の内は温かいものに包まれていて。
グエンが、無事で良かった。
心の底から、安心できた。
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