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第42話 生命線

 寝かされていたのは、グエンのために用意した居室の寝台だった。  まだそれが腐獣だとわかる前、対策なしに腐獣から傷を受けてしまっていた騎士達は、治癒術をもっても傷の治りが遅く、砦の小さな医務室は満床だという。  一方で腐敗の核から傷を受けたジェスは、その場でグエンが血の流れを止め、単騎で砦へ連れ帰っていた。  おかげで毒が回りきる前に、中央から到着したばかりの専門医に処置してもらうことができ、医務課から放り出されたというわけだ。 「頭がくらくらするだろ?」  言われて、少し頭を揺らしてみる。  途端にぐるぐると頭の中が回り始めた。 「――っ、」 「ごめん、今言うことじゃなかった」  しばらくじっとしていると、やがて世界はおとなしくなった。 「そのくらくらと、あと傷の周りの発疹。  それが治るまでは、ここで安静にしてて。  あとは回復するだけとはいえ、まだ、他の人に腐敗の毒を広げるかもしれない」 「……グエン、は――」  腐敗の毒が、この身を冒している。  それが、この身から沁み出していくのを想像して、ぞっとした。 「大丈夫」  グエンが目を細めて微笑む。 「俺のこと、知ってるだろ」  止まってしまっていた心臓が、ゆるくほどけたような。  そんな気がした。  グエン立ち会いのもとで専門医だという医務官に診察を受けて、  理想的な回復だというお墨付きをもらった。  折よく砦に専門医と拮抗薬が到着していたこともさることながら、  治療を受けるまで、血流をコントロールして血の巡りを抑えられるグエンがいたことが生命線だったと聞いた。  それから、結界を操って、ジェスの看病をできることも。  もしグエンが毒を受けていたら、なす術はなかった。 「日が経てば毒も抜けます。しっかり体を休めて、回復に専念してください」  医務官の言葉に、瞬きで頷く。  無理に頭を動かすことはしないよう言い含められていた。 「あの……」  医務官のすぐ後ろに控えて、結界を維持するグエンに目線を移す。 「グエン……。ハーウッドは、休めないのですか」 「ん?」  医務官がにこやかに微笑んで首を傾げた。 「彼は、休んでいますか」  ひとつ。  グエンが瞬きして。  医務官が、その微笑みのまま、グエンに向き直った。 「……だ、そうですよ。ハーウッド卿」  見つめる先で、グエンは一瞬医務官に目をやって、またこちらを見た。 「……その……」 「グエン、――少し汚いぞ」  ジェスの言葉にくくっと笑った医務官の声が、部屋の中、空気を柔らかくほぐしていった。    

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