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第44話 共鳴
それから二日。
目眩がおさまって、発疹から赤みが引き、ようやくジェスはグエンの部屋から解放された。
それでも、ただ廊下を歩くだけでも手足は重く、医務室まで歩く間にも何度か足を止めた。
――グエンの付き添いを断ったのは、自分だったけれど。
「お気づきだと思いますが、体力はかなり落ちています。
腐獣たちと同じで、しばらくは思い通りには体は動きませんし、疲れやすくもなります」
医務官はそういうと、ジェスの腕をそっと下ろした。
腐獣と同じ。
その言葉は思ったよりも重たく、肩にずっしりとのしかかった。
「業務は内向きのものに限るよう隊長殿には伝えていますが、十日ほどで動きやすくもなります。
今、無理に体力を戻そうとはしないように」
それから。
そう続けて、医務官は顔を巡らせて廊下の方を見た。
「本当は、砦内の移動も誰かとご一緒が良いですよ」
「……はい」
この日は医務官が付き添うから、というので、そのまま空いた診察台で休んでおくように言い渡された。
怪我から復帰した騎士たちを見送った病室は静かで、思わず息を潜めて、一番手前の寝台にそっと横たわる。
目眩こそなかったが、重たくなっていた体はそのまま眠気に絡め取られていった。
「……――。――――」
「――」
誰かの話し声がしている。
「……――やすめるべきで――」
「――――」
「ダメです。聞き分けてください」
聞き覚えのある声だった。
誰だったかと思い、
ぼんやりと記憶を探る。
――治癒術師だ。
ガレスだろうか。
腐獣に傷を受けた騎士たちは、専門医の治療で快癒したと聞いたから、
ここで治療を受けているのは、おそらく彼だけだ。
意識は浮上したものの、重たくなった手足はぴくりとも動かなくて、
まぶたを開けることもできなかった。
「――探してくれたんじゃないんですか」
「…………――――」
ぼそぼそと答えているガレスの声は、聞き取れなかった。
ただ、治癒術師の言葉に、なんとなく座りの悪いものを感じる。
その声には、ほんの少しだけ、切羽詰まった響きがあった。
「――――」
「――――、――」
密やかな声の応酬。
意味を取れなくなって、そのまま意識が沈んでいく。
早く、動けるようになりたい。
ガレスが回復したら、グエンも中央に戻る。
それまでに、少しでも元気に――。
「役目がなければ、私は、――もう必要ありませんか」
耳に飛び込んできた言葉に、思わず目を開く。
溶けかけていた意識が急に形を取り戻した。
「もう、……いらないのですか……」
涙まじりの声だ。
気づいてしまって、強く目を閉じる。
これは、自分が聞いてしまっていい話ではない。
「違う、……そういうことじゃない」
目を閉じても、声を閉ざすことはできなかった。
「そういうことです。……勝手に守って、それで、何の約束も無しで、帰る」
「……俺に何を約束できる」
ガレスが、吐き捨てるように言った。
いけない。
これは、聞いていていい話ではない。
何とかしてこの場から逃げ出したくて、考える間もなく、寝台を這い出るために手足を動かした。
それでも、手遅れだった。
「そんなふうに身を削らせるために、……番ったんじゃない。
だけど、だからって、なかったことにしたくもないんです」
……ああ。
室内、痛いほどの沈黙が落ちて、
頭を枕に預け直した。
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